アマゾンで芦沢央の著作を検索して以来、シツコイくらいにオススメされていた本作。評価にざっと眼を通してみた限りでもイヤミス作家っぽいし、……ということで購入。映画化もされているようで、そちらの作品紹介でも「イヤミスの新たな傑作!「全員悪女×ダマし合い」裏切り!エンターテイメント」とある通り、確かに登場人物皆これ悪女のそろい踏みで、さらには予想外の結末へと堕ちる構成など、なかなか愉しむことができました。
あらすじは、名門学校で文学サロンを主催する真性お嬢様の娘っ子が転落死をする。しかし彼女の死は果たして自殺だったのか、事故だったのか、それとも……。文学サロンで恒例の闇鍋会が開かれる夜、事件の真相が明らかにされる、――という話。
文学サロンらしく、お嬢様の死の真相をメンバーたちが小説にし、それを朗読しながら闇鍋会を進行させるという構成で、司会の女性による「開会のごあいさつ」のあと、次々と小説が読まれていくのですが、六編の小説が明らかにしていくのは、サロンのメンバーのこいつが怪しい、絶対にアイツが犯人に違いないという痛烈な告発で、同時にメンバーたちの秘め事も暴かれていくという趣向は確かにイヤミスらしさがムンムンと匂い立つ素晴らしさ。
死の直前に件のお嬢様の様子がおかしかったということが複数人の手になる朗読小説の中で明かされるのですが、この真相はちょっと見抜けませんでした。しかしながらサロンのメンバー全員が娘ッ子の体調不良については大いなる勘違いをしていたわけで、女学生でもないロートル男子には、この真相、判る筈もありません。
本作の優れているところは、この体調不良の理由が明かされるとともに、お嬢様がひた隠しにしていた秘め事が最後の朗読小説でイッキに明かされ、そこから今まで表舞台にさえ出てくることのなかった人物にスポットライトが当たり、闇鍋がいかにも闇鍋らしいイベントへと変容した挙げ句、サロンの連中を恐怖のドン底に陥れる後半の急転でしょう。阿鼻叫喚地獄の中で一人、裏方から表舞台へと颯爽と踊り出した人物の、怜悧にしてブラックな動機ももう一つのキモで、確かにタイトルの暗黒女子に相応しいその振る舞いは、本格ミステリにおける狂気の論理としてなかなかのもの。
いかにもなお嬢様学校の舞台装置や、規格通りの登場人物の造詣など、いささか昭和成分が入りすぎた筆致は、ややもすれば漫画チックと受け取られてマイナス要素になるモノですが、本作では、だからこそ最後のイヤミス的帰結が平板な恐怖ではなく、むしろギャグへと昇華された趣きさえ感じられるところが素晴らしい。映画や漫画の方が、むしろこの大仰な物語世界を愉しむことができるカモ、と感じた次第です。
読み口も軽く、あっという間に読めてしまうので、「イヤミスとはいえ、芦沢央はちょっと重くてねえ……」なんて時にはカジュアルな本作を手にするというのもアリだと思います。オススメでしょう。
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