なまなりさん / 中山 市朗

解説には「体験者本人によって、二日間にわたり語られた生々しい体験記」とあるので、「実話怪談」ではなく「実話」として読んでいく”べき”なのか、ちょっとこのあたりに迷いはあったものの、とりあえず自分は「実話怪談」の「作品」として読んで、なかなか愉しめました。

物語は、沖縄で修行した退魔師でもあるプロデューサーの人物が語る心霊体験で、この語り手の仕事仲間である青年が邪悪姉妹に眼をつけられ、彼の婚約者はこの姉妹の度重なる嫌がらせによって沖縄で自殺してしまう。しかし婚約者の死後、邪悪姉妹には恐るべき呪いが降りかかり、――という話。

金に物を言わせて周りの人間(特に男)を思い通りに操ろうとする姉妹の暴走がそもそも相当に嫌で、惚れた男に婚約者がいたと判るや、その会社にまで入り込んできて、婚約者の悪口を振りまくわ、挙げ句の果てには犬の首を彼女のマンションに捨てていったりと、実話ホラーも真っ青もサイコぶり。

しかし婚約者の死後、呪いが発動し、この姉妹がどんどんヒドいことになっていく中盤以降の展開は、たしかに怪談ではあるものの、復讐譚として読めば「ざまあみやがれッ!」と快哉を叫びたくなるほど爽快な筆致で魅せてくれます(良い子はこういう読み方はしちゃダメ)。

しかしこの姉妹の親から「どうか娘を助けてください……」と請われて、姉妹の実家に語り手が乗り込んでいくと、黒い影がいる、姉妹の母親が夜中に絶叫する、仏壇の扉が夜中にパカッと開く、白い靄が這い出てくる、――という具合に定番の怪異がさまざまに発動して、復讐譚ではなく、怪談であることをビンビンに主張してきます。

話が進むにつれ、この一族にはそもそも古くからの因縁が絡んでい、それが沖縄で自殺した婚約者の呪いをトリガーとして発動した、というのが真相らしく、語り手の努力も空しく、長い時間を経てこの一族はついに崩壊するのですが、この周りにまで怪異が波及していく怪談らしさはかなり怖い。このあたりはちょっと『呪怨』っぽくもありますが、あそこまで無慈悲に怪異の鉄槌が下るわけではないのでご安心を。

怪異の様態が意表を衝いたものではなく、定番もの(白いモヤモヤ、黒い影、位牌が真っ二つに割れる等)であるところが、怪談物語としてはチープではあるものの、リアリズムの視点からすれば、逆にそれが実話っぽくあるところが秀逸です。

個人的にはやっぱり前半の、邪悪姉妹とその家族の方がコワイ、やっぱり人間の方がコワイ、……けど、こんな一族を成敗してくれた怨念に感謝感激、というちょっと斜め上を行く感想になってしまったのですが、間延びした展開は一切なく、あっという間に読了できてしまうところも好感度大。

じめっとした感じではないものの、リアリズムを所望する怪談ジャンキーであれば、かなり嗜好にマッチする逸品といえるのではないでしょうか。