というわけで、まず最初の記事は、先週台湾で行われた島田荘司推理小説賞のレポートから。一応、今回の台北滞在中における御大のスケジュールを簡単に記しておくと、九月八日の午後二時から王朝飯店で授賞式を終えたあと、午後は入賞者や関係者を交えてのディナー・パーティー。翌日は午後二時から台湾大学で『私が作家になるまで』というタイトルの講演。そして夜七時からは誠品書店の信義店において今回の入賞者である陳浩基、冷言、陳嘉振の三氏を交えてのトークショー、――というかんじでありました。
一応、この新ブログでは、写真を掲載していくことを企図してかなーりシンプルにしてあるゆえ、自分の駄文はとりあえずこのくらいにしてさっそく会場で撮影した写真をのせていきます。今回はUstreamでLive中継されていたゆえ、かなりのミステリファンが見ていたかと思うのですが、司会の紹介によって御大が登場したあと、怪しげな舞踏が始まりました。第一回の冒頭でも『サロメ』をモチーフにしたダンスが演じられたのですが、今回は三部に分かれていて、それぞれのシーンにおいて今回の入賞作が取り上げられているとのこと。
まず最初に登場したのはなにやら冊子をたくさん抱えた男性で、会場の向かって右手にある扉からすーっと入ってくるなり、錯乱した様子で踊り出しました。
これはおそらく陳浩基氏の『遺忘・刑警』で、過去の記憶を喪失した男を演じているのでしょう。
彼が退場したあと現れたのは、カメラを首からブラ提げた眼鏡っ娘で、BGMは確か怪鳥の鳴き声を交えたちょっと現代音楽チックなかんじの曲でした。続いて奇妙な踊りを演じながらボロ服に白い仮面を被った男が背後から登場、――と、これは冷言氏の『反向演化』で、件の眼鏡っ娘がアイドルの關野夜で、仮面の怪人が地底人という設定かと。
正直に告白すると、件の眼鏡っ娘がしなやかな体を後ろにのけぞらせるところでは、ローライズのジーパンから「うおッ! デ、デルタ見えそうッ!」と鼻息も荒くかぶりつきで凝視していたのですが、いま写真を確認したら、彼女、しっかり肌色のレオタードを纏っていました。見えない筈です(爆)。
続いて二人が退場すると、男性が白いドレスを恭しそうに中空に掲げるようにして登場。やがて上半身に肌色のレオタードを纏ってさきほどの彼女が登場、――ってこの時点で気がつけよ自分、とツッコミを入れつつ話を進めますと、男は手にしていたドレスを彼女に着せ、そこからは二人のダンス。
しかし唐突に彼の手をふりほどいて逃げる彼女、それを追う男というシーンのあと、女は男に何かを手渡した様子。それはS字にくりぬかれた何かで、男はそれを掲げながら、逃げていった女を再び追いかけ退場、――というところで幕となりました。このS字というのは、陳嘉振氏の『設計殺人』で犯人が屍体に残していくサインで、連続殺人事件を解明するヒントにもなっています。
この舞踏のモチーフとなった入賞作の三編については近日中にこのブログでも取り上げることにして、話を先に進めますと、このあと来賓として今回の授賞式に参加された島崎御大、柄刀氏、三津田氏、などが紹介されました。続いて、香港から来台された陳浩基氏、冷言氏、陳嘉振氏などが立ち上がっての挨拶。そして二次選考の選評について語られたあと、惜しくも入賞は逃したものの、すでにネットでは評判となっている『無名之女』の作者である林斯諺が壇上に登場。賞状が送られました。
そしていよいよ受賞作の発表となるわけですが、――その前に、御大の公式サイトのひとつ、『島田荘司+Black Spider Club』のお披露目がありました。ちなみにサイトは現在のところ日本語と繁体字中国語に対応。何でも以後、英語など多言語対応を進めていく予定で、日本はもとより、台湾、中国、アメリカから現地のミステリーの最新情報を提供していくとのことです。
で、第二回島田荘司推理小説賞受賞者は、既報の通り、『遺忘・刑警』の陳浩基氏でした。
ちなみにこの写真は御大が壇上にあがって、いよいよ受賞者の名前を口にする瞬間のショットで、手前から陳浩基、陳嘉振、冷言氏。期待、不安、諦観、……三人の表情からは、さまざまな思いが読み取れるような気がするのですが、いかがでしょう。
受賞者の陳浩基氏は香港人で、母国語は広東語。次に英語で、中国語は三番目だそうで、難しい話をするなら英語の方がイイそうです。実はこの翌日、誠品書店でのトークショーの前に入賞者の三人に寵物先生、台湾ミステリ編集者の冬陽氏もまじえて食事をしたのですが、そのときにちょっとだけ陳浩基氏と話をする機会がありました。非常に理知的でユーモアもある人物で、作風から感じられるイメージどおりの雰囲気。
というわけで、授賞式の模様はこのくらいで。次回はこの授賞式のあとのディナー・パーティーでの顛末をふんだんな写真とともにお伝えし、受賞者である陳浩基氏がその場で語った自らの創作技法などについても述べてみたいと思います。こうご期待。