第二回島田荘司推理小説賞レポート in 台北 (2)

第二回島田荘司推理小説賞レポートin 台北 (1)」の続きです。授賞式後のディナーパーティーは六時半から、吉林路の台湾料理レストラン、阿美飯店で行われました。第一回島田荘司推理小説賞のディナーの場所に比較すると店内はこじんまりとした、それでいてちょっと洒落た雰囲気のお店で、看板はこんなかんじ。パーティーは二階で行われました。

今回のディナーパーティーが行われた吉林路の阿美飯店
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阿美飯店で出された台湾料理の一品。
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とにかく向こうに座っている島崎御大の食べっぷりと飲みっぷりが凄い(爆)。隣に座っていた島田御大と三津田氏は台湾ビールをすすめられることしきり、三津田氏の話によると、水木しげるもその食べっぷりが豪快、とのことで、元気の秘訣は食にアリと感じた次第。

手前から三津田氏、島崎御大、島田御大、柄刀氏。
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円卓は二つあって、台湾ミステリ作家の面々が日本からやってきた編集者の方々や黒蜘蛛倶楽部のメンバーたちに挨拶をしたりと盛り上がってきたところで、皇冠のE女史から島田御大にあるプレゼントが渡されました。何かな、と開けてみると、出てきたのはピラミッドで、さらにそれを開くと中からは水晶のピラミッドが現れるという趣向。ちなみに島田荘司推理小説賞の受賞トロフィーは水晶のかたちをしています。

水晶のピラミッドを模した模型。
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で、宴もたけなわというところでそれぞれの自己紹介が始まりました。まずは島田御大の挨拶から始まり、

まずは島田御大の挨拶から。
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これまた第一回と同様、島崎御大と島田御大の肩組みとハグに続き、島崎御大から日本の編集者の方々に向けての挨拶というか檄を飛ばしているところの一枚がコレ。台湾ミステリについて島崎御大とはちょっとだけ話をしたのですが、何となく台湾におけるミステリの出版事情が察せられるとともに、自分が感じているのと同様の気持ちを御大も抱いているような気がしました……まあ、このあたりはいつか詳しく語れる日が来るかもしれません。

肩を組む島崎御大と島田御大。
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肩を組む島崎御大と島田御大。
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ちなみに島崎御大が最近凝っているのが天文学で、いまではミステリよりもそちら方面の本を耽読しているとのこと。島崎博とビッグバンという組み合わせは何だか意外ではありましたが、「ミステリっていうのはね、ロマンなんだよ!」という御大の言葉を考えれば納得、でしょう。あと、島崎御大情報として、大陸での乱歩ものの編集のことや、「乱歩について本を書きたいんだけど、ボクには時間がなくてねえ……」と口にした御大に対して、隣に座っていた三津田氏がすかさず「書いてください。今すぐ書いてくださいッ!」とせかしているのを自分は傍らで耳をダンボにして聞いていた次第。

島崎御大が台湾ミステリ作家たちに檄を飛ばすの図。
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三津田氏は、受賞式当日に羽田から早起きして台北に到着するや早々に出版社からのインタビューがあったとのことで、「台湾の印象は?」と訊かれて「眠い……」と答えたとのこと(笑)。インタビューを行った出版社曰く、台湾の読者は、刀城シリーズで「もっともホラー色が強い作品」が『首無』と感じているそうで、これは意外に思ったとのこと、――というか、作者である三津田氏ならずとも、日本のファンではあれば、このあたりの日台の感覚の違いに驚かれるのではないでしょうか。

この『首無』感の違いから話は、実話怪談とホラーへと及び、日本の幽霊と台湾の鬼との違いなどについて三津田氏から話をうかがうことができたのですが、興味深かったのは、氏が「もっとも怖い怪談」としてその場で披露してくれた話。ネタバレを避けるため詳細は語れませんが(昔だったらこういう話もここでさらっと書いてしまったんですけどねえ……(ボヤキ))、この逸話には幽霊や怪異というものはいっさい登場しません。ただ、ある事柄とその背景が語られるだけというものながら、この怪談話の見事なところは、怪異が明かされた瞬間、まずほとんどの聞き手が「推理」するであろう「可能性」を、あらかじめその語りの中で封じてしまっているところでしょう。

そうした論理的、理性的な可能性を封じられてしまっているがために、聞き手はその背景の中に仄見える「あるもの」の存在を受け入れざるを得ない。それはある事象とある事象との間に因果や連関を探ってしまうという人間の深い業を突いてくる怖さであり、このあたりからも三津田氏のホラー感がうかがえるような気もします(実はここで、刀城シリーズと死相学探偵シリーズとの特色と違いについて突っ込んだ質問をしたい誘惑にかられてしまったのですが、自重)。

自身の創作について語る陳浩基氏。
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島田御大が陳浩基氏の短編「傑克魔豆殺人事件」について感想を述べると、この作品についてちょっとだ自作解説を披露してくれました。氏いわく、この作品は「ジャックと豆の木」がヒントになっているわけですが、こうしたお伽噺を本格ミステリへと改変することよりも、まず「中世の世界を現代の視点から見たらどうなるだろう」という現在と過去という二つの視点を交錯させることが狙いだったとのこと。

この二つ時間軸の視点というのは、そのまま二十一世紀本格の要諦に通じるものであり、今回の受賞作『遺忘・刑警』は、氏が意識して二十一世紀本格の作品を書こうとしたその成果でもあるわけですが、「傑克魔豆殺人事件」を着想した時点で、氏はすで二十一世紀本格の骨頂を摑んでいたような気もしてきます。このあたりは、またいつか御大との対談が実現したときに、突っ込んで話をしてもらいたいナ、と感じた次第。

ヒッチコックについて御大から訊かれている陳嘉振氏。
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陳嘉振氏は、ブログで台湾ミステリについてかなり熱く語ってくれているあの雰囲気とは対照的に寡黙な印象ながら、ここでは入賞作『設計殺人』がヒッチコックの風格を想起させると選評で言及していた島田御大より「ヒッチコックは好きですか?」と訊かれ、「ヒッチコックは……見たことありません」。とはいえ、陳嘉振氏曰く、「ヒッチコックは多くの映画や小説に影響を与えてきた巨匠であり、自分がこれまで触れていた作品の中にも、そのエッセンスはあった筈で、それがいまの自分の血肉となっているのだと思う」。

冷言氏のエピソードは、この翌日の誠品書店でのトークショーのときのものが秀逸だったので、まだ次回にでもまとめてお伝えしたいと思います。

で、店の閉店時間もおしているとのことで、ひとわたり挨拶を終えるとお開きとなりました。このあと島田御大たちはタクシーで二次会へと向かったようですが、自分は足裏マッサージに行ったので、このあとのことは不明(爆)。最後の一枚は、台湾ミステリ作家と日本の美女二人とのショットでシメ。左から作家の石平ひかり嬢、冷言氏、寵物先生、陳浩基氏、陳嘉振氏、そして占星術師の水谷奏音嬢。

日本からの美女二人と、台湾ミステリ作家たち。
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次回は台湾大学での講演と誠品書店でのトークショーの模様を、これまた写真とともにまとめてみるつもりです。こうご期待。

第二回島田荘司推理小説賞レポート in 台北 (3)」に続く。