偏愛。実は地雷本だと思って購入したら、存外に面白かったという(爆)。おそらくはゼロ世代に青春時代を熱く過ごした理屈っぽい中年予備軍や、最近流行っているらしい異世界転生もの(っていうノ?)をワクワクしながら読みふけっているヤングをターゲットにした一冊ではないかと推察されるものの、自分のようなオジサンでもかなり楽しむことができました、――というか、筒井康隆とか式貴士のあの作品とかを懐かしく思いだしてしまったのは自分だけではない筈です。
物語は、小説投稿サイトに自分の小説を発表していた主人公が、とある導きによって自分の書いた物語世界にダイブできる方法を発見。作中のヒロインをはじめとするキャラたち全員を救うため、おれはさまざまな手を尽くすのだが、……という話。
おれが書いている小説『臥竜転生』のキャラたちを救うために様々な実験を小説の執筆によって模索する主人公、――“の物語”が本作のタイトルでもある『異セカイ系』になっているという入れ子構造が本作のミソで、そこへ「作者への挑戦状」という飛び道具を後半に添えることで、世界人類皆兄弟が幸せになれますようにッ!という青臭いメッセージを『異セカイ系』の物語の外にいる我々読者へ向けて叩きつける技法が素晴らしい。
前半はただひたすらダラダラと物語が続いているような感じを受けていたものの、主人公のおれが物語を書くことで自作の登場人物たちを救済していく実験を次々と試みてみるとともに、その戦略を要所要所でダラダラと語り出すあたりから、ようやく『異セカイ系』としての物語が動き出していくのですが、ここで作者の深謀遠慮を見抜けないと格段にツマらない地雷本として壁に叩きつけることになってしまうカモしれません。
上にも述べた飛び道具である「作者への挑戦状」に絡めて、本格ミステリにおけるあるトリック、――ちょっと連城ミステリにも通じるような人工的な仕掛けが明かされ、登場人物たちの相関が続々と上書きされていく展開はスリリングながら、くだんの挑戦状を“作者”に提示した“犯人”についても、ミステリ読みであればおおよそのアタリがついてしまうところはちょっとアレ。とはいえ、ここから『臥竜転生』と『異セカイ系』を重ねて見せることで物語る主体と客体とを逆転させ、ある人物の過去と今を我々読者の前に明かしてみせる趣向は秀逸です。
実際のところ、これだってかなり青臭い試みではあるものの、これを一般小説のようにストレートに見せるのではなく、かといってヤングの小説にありがちなダラダラと理屈っぽい文章をこねくりまわして伝えるのでもなく、地の文や台詞の構造に格段の工夫を凝らすことで小説の結構そのものから起こしてみせたところが本作の真骨頂といえるでしょう。このあたり、関西弁の軽すぎる文章から作者はただのアンポンタンではないかと勘違いしてしまうものの、文体の軽さがそのまま物語やメッセージの軽さを意味するものではないことは、このあたりのミステリを読ませた読者であれば百も承知。
その一方でストレートで青臭いメッセージを伝えるには、いまやここまでまわりくどいことをしないといけないのか、――という、現代における小説の難しさを感じたのもまた事実で、作者はここからどこに、どのような方法で進もうとしているのかに興味津々。次作に期待したいと思います。
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