ライブハウスは未だに病院や施設と同様、厳格な感染対策をいまだ続けており、よほどの覚悟がないと入店は難しい――と考えていた自分が、9月15日に吉祥寺NEPOで開催された『NEPOctober fest EVE!!』に行ってみたいきさつについては、少し前のエントリに記した通り。
で、このイベントに行って、なんだ、想像していたのとは全然違ってすっかり『日常』に戻ってるジャン、とすっかり安心した翌週には、今回のタイトルのイベントを観に行きました。場所は四ッ谷。それも初めてのハコ。吉祥寺NEPOでライブハウスが『日常』に戻っていたことを確認できたとはいえ、前のエントリでもふれた通り、イベントの主催者やハコによっては、未だ客に不織布マスクの着用を必須とし、声出し禁止としている等の話も耳にしていたので、まだまだ油断はできません。
実はこのときまで、コロナ禍以降、山手線の内側に入ったのは一度きりだったので、いったい都内はどんなふうになっているのかまったくイメージできていませんでした。しかし、車を駐車場に預けて四ッ谷駅の周りをウロついてみると、思いのほか皆が”ごく普通の格好”で歩いている――
コモレ四谷の下に並ぶ飲食店のなかを覗いてみても、いわゆる尾身食いをしている客などひとりもおらず、2019年にタイムスリップしかたのような風景(もちろん皮肉で言ってる)に少しだけ安堵して、せっかくだからと『THE ALLEY』で軽く食べておこうと店内に入ってみることにしました。ソファで寛いでいる外国人観光客(おそらく香港人)も日本人たちも、ごくごく普通に振る舞っているに驚きつつ、メディアの報道はいったい何だったのか、と訝りながら麺を食べ終えると、会場となるSOUND CREEK Doppoへ向かいました。
10分ほど前に到着すると、地下の入口に続く階段にはすでに数人が並んでいる。ほどなくして会場に入ると、感染対策を強いる雰囲気もなく、前に並んでいた客たちも普通に店内に入っていくのを見て、ホッと息をついたのは言うまでもありません。
上にも述べた通り、ここは初めてのハコでしたが、何より椅子とテーブルが設えられていいてるのが素晴らしい。この日の出演はBANANA NEEDLEと、自分のお目当てであるhenrytennisで、ステージにはすでに一番手となるBANANA NEEDLEのハモンドオルガンが右手にデン、と設置されていました。
BANANA NEEDLEは、ハモンドを主体としたベースとドラムのトリオ構成。曲的には非常にポップで、プログレというよりは聞き心地のよい軽快さを備えたジャズといった雰囲気。ハコのサイトを見ると、「お馴染みのBANANA NEEDLEとDoppo初出演のhenrytennisが」とあったので常連の様子。実際、演奏は三人とも非常にリラックスした感じで、音響の良さも相まって堪能しました。
続くhenrytennisは、前々から是非とも実際にその演奏を観てみたかったバンドのひとつ。とはいえ、自分がこのバンドを知ったのは、彼ら3rdアルバムである『Freaking Happy』からで、数年前のこと。
このあと、傑作『Bay Leaf and Singers』を2022年にリリースし、いまに至るわけですが、最近でこそプログレという認知が進んでいるものの、自分が知ったのは、どちらかというとカンタベリー方面からの情報でした。日本においてストレートなカンタベリーの音色を特色とするバンドのアルバムといえば、自分の場合まず思い浮かぶのは、『East Wind Pot』、『De Lorians』あたり。
『East Wind Pot』はリリースが2006年のはずで、『De Lorians』が2019年。いずれも印象的なのはオルガンと管楽器の音色で、henrytennisもその構成において共通点はあるものの、たとえばHatfield & The Northの持つ牧歌的な空気や明るさをもっとも濃厚に感じさせるのがこのバンドの大きな魅力のひとつだと感じていて、実際に生で聴いてみると、そうした個性はもとより「ゴキゲン」という言葉が相応しい高揚感が素晴らしかったです。
henrytennisで好きな曲は、という問いにまず挙げたいのが『Bay Leaf and Singers』の最後を飾る「Daylight Fire Section」で、特に終盤の混沌がsaxのフレーズによって美しく転調する構成がかなりツボ。
ちょっとVan der Graaf Generatorの名作『Pawn Hearts』に収録された「”A Plague of Lighthouse Keepers」の後半(“Land’s End (Sineline)”から”We Go Now”)を想起させる(自分はどうもこの「混沌がある楽器の一閃によって転調する」展開がメッチャ好み)。
この日の演奏でも「Daylight Fire Section」は演奏されて、このときは感激のあまり泣いてしまった(爆)。観たかったバンドが、ずっと聴きたかった曲を眼の前で演奏してくれている、というのはもとより、やはりこの曲が自分は本当に好きなんだなァと感じ入った次第です。
henrytennisはこのイベントのあとProgTokyoに出演したり、結成20周年記念のイベントを新宿MARZで開催しているのですが、自分はスケジュールが合わずいずれも断念。そして、来月2月には『BE HIGHER SELF』というイベントが中目黒であって、出演バンド3つがすべて好きという滅多にない(とはいえ、去年の11月に奇跡的なイベントがあって観ることができたのですが、これについてはまた後日)機会ではあるものの、祝日ゆえ、多分自分は参加できず……
「現代ジャズとプログレを橋渡しする稀有なバンド」であるhenrytennis、ジャズ、プログレ、カンタベリー、このあたりに好きな人であればライブに足を運ぶ価値のあるバンドだと思います。