『火盗改香坂主悦』、『小料理のどか屋 人情帖』に続く、クラニーの時代モン新シリーズで、話の筋を簡単に説明すると、要するにこれはクラニー版『必殺仕事人』。ジャケ帯に「非業の死を遂げた者よ、わが刀に宿り、恨みを晴らせ!」とあるから、主人公が中村主水よろしくワルを刀でズブリと成敗するお話かと思うと、まア、半分は正解ながら、その処刑方法は純クラニー式のスプラッタホラーというところが新機軸。
物語の前半に裏町奉行を名乗るチームのお披露目ともいうべき逸話を鏤めていき、主人公の復讐にも繋がる悲哀のエピソードを絡めているところが秀逸です。主人公は、町奉行の弟の三男坊で、端から見ればいかにもぐうたらな遊び人ながら、フィアンセはレイプされて殺され、さらにはキ印の辻斬りに親友も殺されているという、かなりヘビーな設定。まずはこの辻斬り野郎に復讐を誓い、その犯人捜しをしていくうち、ある出会いがあるのですが、これが裏町奉行チームの結成へと繋がっていきます。
辻斬り野郎も相当にイカれたキャラなのですが、許さざるべきクズという点では、主人公のフィアンセをレイプした挙げ句に殺害した輩どもの方が遙かに上、『おれはこの腐れた天下に堕とされてきた毘沙門天よ。神に戻るためには、大願を成就させねばならぬ』とうそぶき、「百人の女を成仏させてやる」と豪語する重度の厨二病患者。中盤にこのワルがトンデモな大願成就を誓うシーンがあるのですが、ここにさりげなく、後半の処刑を仄めかす伏線を仕込んでいるあたりの気配りが心憎い。
ワルは裏奉行たちの罠にまんまとハマり、通りすがりの尼さんに欲情した挙げ句、『尼の観音を開けば、さぞやご利益があろうぞ』と鼻の下を伸ばして近づいたのが運の尽きで、裏奉行に拉致されてしまう。フィアンセへの復讐に燃える主人公が『女』『心』という文字を脳裏に浮かべてある言葉を連想するシーンなど、”文字禍”チックなこだわりは従来からのクラニーファンであればニヤニヤ笑いが止まらないところでしょう。
『必殺仕事人』のような”健全”な時代モンであれば、ここでは拉致るのではなく、チームのメンバーがそれぞれの得意技を活かして、ワルどもを地獄に堕としていくという見せ場が用意されるわけですが、クラニー式の時代モンである本作では、ここから身の毛もよだつ拷問が展開されます。フィアンセの形見である或るブツを使った恥辱プレイにはじまり、望月あきら御大の『カリュウド』をガキの頃に読んで失禁するほどコーフンしてしまった自分のような中年男子や、アルジェント御大フウのスプラッターがタマらないというホラー中毒の御仁であれば、満足すること間違いナシという処刑のネタは絶品至極(いや、実際これと同じネタは、『カリュウド』の中にもありました)。
「ほれほれ」「ぐははは……」と下卑た笑いを漏らして狼藉を限りを尽くすワル野郎のキャラや、殺陣シーンはナシにして、クラニーのホラーが大好物というファンの嗜好にも配慮した処刑を最後の見せ場に持ってくるという構成など、「バカミスでもないし、ホラーでもないから……」と敬遠してしまうファンでも問題なし。時代モンとはいえ、抜群に読みやすい流麗な文体から紡ぎ出される物語は、クラニーらしい個性を十二分に発揮した逸品で、特に今回はその処刑ネタだけでも、ホラーファンであれば、お腹イッパイになれるのではないでしょうか。オススメです。