slow view / 蛎崎洋 個展@キチジョウジギャラリー

ようやく遅い夏休みをとることができたので、今日は吉祥寺に蛎崎洋氏の個展を観に行ってきました。蛎崎氏は「美人物ポートレート写真@レンズ付き」のブログ主で、最近、妻をモデルにした処女写真集『コロイド』を刊行、個人的には「GENZO_INDEX」のヒロ氏と並んで、お気に入りの写真家であります。

キチジョウジギャラリーは、アパートの一室を小洒落たギャラリーに改装したかんじの――かつて表参道にあった同潤会アパートを彷彿とさせるたたずまいで、淡いトーンを活かした氏の作風にも素晴らしくマッチしていました。

入って左側には、ブログにも掲載されていた沖縄編とおぼしき写真が飾られてい、その奥には『コロイド』の後半に掲載されていた町田の写真も交えてやや大きめのプリントが展示されているという構成で、今回は、アンバーよりの彩度の低い氏の写真の中ではやや異色ともいえるモノクロの作品が印象に残りました。カラーと違って、このモノクロの作品は逆光という構図もあってかコントラストが際立ち、(老眼鏡で)眼を凝らすと、逆光の黒のなかに精緻なトーンの連なりがしっかり立っているという仕上がりで、このプリントを見ることができただけでも大満足。この隣に飾られていた作品も、カラーながらブルーのモノトーンに近い仕上がりで良かったです。

モデルが妻ということで、写真好きであれば、ここは中村泰介の傑作『妻を撮ること』を比較したくなるところでしょう。自分の場合――『妻を撮ること』は、ページをめくるたび、撮られることに戸惑いを見せる妻と、その戸惑いが醸し出す場の空気さえもすくいとってみせる写真家の”業”のようなものが濃厚ににおいたつ作品世界にノックアウトされてしまったわけですが、それと比較すると、蛎崎氏の写真はもっとリラックスした雰囲気を醸し出しています。これは被写体である妻と写真家の距離感の違いというよりは、被写体である妻・ナマダ嬢がモデルであることに大きく関連しているような気がしました。

写真の中のナマダ嬢は、どんなこっぱずかしいポーズであろうと鷹揚にこなしてみせる懐の深さを見せ、日常生活のスナップでさえも、そこには、その一枚を作品として成立させてしまうモデルの巧みなポージングと、それを精確な構図に収めてしまう蛎崎氏の技巧がある。藤原新也の写真を最上とする自分のごとき偏狭な写真好きにとっては、そうした被写体の巧みさや撮る者の技巧を写真の中に”見てしまう”と妙にソワソワしてしまうわけですが……だからこそ今回の展示では、ポートレート風の構図ではなく、風景の中にモデルのナマダ嬢に置いてみせた写真の数々に強く惹かれました。

たとえば、『コロイド』にも収録されている、森野踏切でナマダ嬢を斜め後ろからとらえた写真。あるいは畦道を歩く彼女を後ろからとらえたショット。いずれも被写体の視線は”こちら”には向いておらず、それゆえに生じるモデルの”隙”と、彼女がいる”いま、ここ”の空気を見事にとらえてみせた氏の技巧が見事に重なり、素晴らしい作品へと昇華されているように感じた次第(そういえば、上に挙げたモノクロの一枚も、このような構図でした)。

会場にはモデルのナマダ嬢もいて、『コロイド』を購入するときにちょっとだけ話をすることができたのですが(撮影場所の森野踏切や緑地のことトカ。隣町ゆえ、自分にとっても馴染みの場所だったり)、写真の中の彼女はもちろん、実物”も”最高にキュート(爆)。蛎崎氏は、ブログやFacebookのポートレートから感じられた『柄刀一先生に似てるなー……』という印象とは異なり、もっと木訥とした、川島小鳥氏のようなオーラがありました。このオーラこそは美女・美少女を引き寄せるものなのか……あ、あやかりたい……と氏の顔をチラ見しながら考えたのはナイショです(爆)。

開催は、来週の月曜、九月三日まで。詳細は氏のサイトのこのページを参照のこと。オススメです。