のぞきめ / 三津田 信三

のぞきめ / 三津田 信三ジャケ帯には「怪談とミステリの絶妙な融合!」とあるわけですが、こうした風格の物語の場合、ミステリの視点から読むのと、怪談の視点から読むのとでは、作中に描かれる怪異の受け止め方次第で読後感が異なるもの。怪異に現実的解が与えられ、怪異そのものが完全に解体されるのか、それとも怪異はいわば”あるもの”として作中の事件においてのみ論理的な解が与えられるのか、――結論から先に言ってしまうと、本作の場合はやや後者寄りの物語というか、……ここで”やや”と曖昧な言葉を使ったのにはもちろん理由があって、この怪異と論理に対する絶妙な調律が本作最大の魅力といえるでしょう。

本作は、作家である語り手が知人から知ることになった貸別荘地での恐怖体験を描いた「覗き屋敷の怪」と、ある村での奇妙な出来事が綴られた「終い屋敷の凶」の二編からなり、この二つの所以を語る序章と、最後に二つの物語の曰くが繙かれる終章が添えられています。

第一部となる「覗き屋敷の怪」は、非常に明快な怪異譚で、怪しげな貸別荘地にバイトでやってきたヤングたちが禁断の地に足を踏み入れたばかりに祟られて、――という話。祟りの帰結としてしっかりと人死にも用意されていて、謎解きがなくともこのまま怪談として完結しているのですが、続く第二部「終い屋敷の凶」において語られる物語において、第一部に描かれていた怪異の曰くと祟りの所以が明らかにされていきます。

第一部の怪異の”謎解き”が、霊的現象を前提とした論理によって解き明かされていくという構成をとりながらも、もちろん霊的現象をあるものとして取り扱っている以上、このままではかなりの好事家を除けば、マトモなミステリとして受け入れられる筈がありません。本作が秀逸なのは、最後の終章において、第二部の後半でブチ挙げられる人死にも含めたいくつもの謎に対して、シッカリと現実的解を与えるという、――いうなれば、二段重ねとした謎解きの趣向にあります。

この終章では、さらに出現した怪異のみならず、怪異の不在という気づきから登場人物に降りかかる祟りのロジックを仕分けてしてみせているところが素晴らしく、怪異として出現していたものの存在が現実のものへと解体されるという、ミステリとしてはお約束の展開によって、第二部の人死にの真犯人とその背後に隠されていたおぞましい因習が明かされるあたりは、刀城シリーズを彷彿とさせる意外性で見せてくれます。

第二部は怪異譚であるがゆえに、読者は物語の表層に見えている怪異の謎にばかりに目がいってしまい、終章で箇条書きにされた登場人物たちの奇妙な振る舞いを示した謎の数々を見落としてしまう、――怪談の風格を前面に押し出した結構であるからこその誤導が際立つ本作の魅力はこれだけではなく、『呪怨』ミーツ日野日出志センセみたいなこけおどしも交えて読者をリアルに怖がらせる趣向をも盛り込んだゴージャスさ。終章の謎解きをもう少しネチっこく展開していればそのまま刀城シリーズでも通用するのではないか、という因習と怪異とおそるべき真相の豪華なコンボは、三津田ミステリの読者であればかなり愉しめるのではないでしょうか。オススメです。