これはイイ。『誰もわたしを倒せない』に『死闘館』と、格闘技に本格ミステリの技巧を絡めた秀作に続く本作も、併走する二つの事件の重なりにプロレスという舞台ならではの趣向・技巧を投入した逸品で、堪能しました。
物語は、プロレスラーだった父親の死に疑問を抱いた格闘娘が、その父親から薫陶を受けていた新米レスラーとともに少女連続殺人事件と麻薬事件に挑む、――という話。全編プロレスという特殊な舞台のシーンが続き、ミステリとしての連続殺人事件に対する捜査は完全に後景に退いているという見せ方がまず斬新。連続殺人事件であれば、それぞれの被害者の出自やミッシングリンクを探っていく捜査の描写で物語を牽引していくのが定石ながら、冒頭、伝説のレスラーのインパクト大な登場シーンから始まり、レスラーたちの熱いドラマが大展開していきます。
とはいえ、野郎ばかりじゃ暑苦しくていけねえ、昨今の本格ミステリは美少女が出なくちゃ駄目なんだろッ!とばかりにキチンと娘ッ子が探偵役として登場するのですが、これがまたタイトルにもあるガチ!なファイトが三度の飯より好きというバリバリの格闘娘。とはいえ、柔ちゃんみたいな物の怪ではなく、ちゃんとした美少女なので、自分のように痛いのはイヤだけど、武田梨奈ちゃんの回し蹴りだったらご褒美ですッ!みたいなド素人にも配慮した親切設計ゆえご安心を。
上にも述べた通り、謎解きや事件捜査といったシーンは極力薄めて、少女連続殺人事件についても刺身のツマ程度に被害者の検死状況がさらりと語られるのみという結構から、本格ミステリ度はたいしたことないものかと思っていると、後半、もう一人の主人公である新米レスラーの試合が決まるや物語は急速に動き始めます。
正直、麻薬事件に関する構図については中盤であっさりと見抜けてしまったのですが、冒頭のシーンから察するにおそらく作者もその点については判っていた筈で、本丸の謎は少女連続殺人事件の方。格闘娘と新米レスラー二人の推理によってその犯人が仄めかされたあと、リング上での試合が進むにつれ、事件の構図が明かされていくという見せ方ながら、物語はこれだけでは終わりません。新米レスラーの試合と謎解きを重ねた手に汗握る見せ方は『神田紅梅亭寄席物帳』を彷彿とさせる巧みな展開で魅せてくれ、これだけでも十分に満足なのですが、娘っ子のガチ!な死闘によって真の事件の構図が明かされる謎解きには完全にノックアウト。
少女連続殺人事件における被害者のある傾向から犯人の動機を見抜き、それを麻薬事件と連関させる趣向も見事なら、二つの事件に共通している”見えないひと”の仕掛けが素晴らしい。またこの娘っ子の謎解きによって、つい先ほどまで演じられていた新米レスラーの試合におけるこの趣向が傍点つきで明かされる推理の見せ方も言うことなし。
死闘のために準備された必殺技や、「楽しいなあ、おい」みたいな『修羅の門』っぽい決め台詞など、格闘小説としての”お約束”にもしっかりと留意したプロレス風の趣向も素敵で、格闘小説としても、また驚きの構図を後半に配した本格ミステリとしても楽しめるという一粒で二度美味しい本作、前二作の作風で作者のファンになった方も、またアマゾンで本作を検索すると、「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」の中に『GONG(ゴング)格闘技 2013年4月号』や『KAMINOGE [かみのげ] vol.15 』が表示されることから推察される格闘ファンも楽しめるのではないでしょうか。本作が映画化されるときには、是非ともつくしは武田梨奈チャンで。憂いを帯びた瞳はつくし役にピッタリだよ、とドサクサに武田梨奈をさりげなくアピールして本作の感想を終えたいと思います。