ジャケ裏のあらすじを読む限りでは、殺人鴉を調教したネクラ男と、美人教授・捜査一課刑事コンビの対決!――みたいな印象を受けるのですが、さにあらず。当初予想していた話の展開とはまったく違う方向で暴走していくので、ホラー映画などでは定番の風格ながらかなり愉しむことができました。
物語は、あるものの視点から始まり、これが人間とこのあるものとの死闘を経て最後にべつの視点から描かれるエピローグによって幕となるのですが、まずこの結構が素晴らしい。先に個人的には意外な展開と感想を述べましたが、このあるものの視点のあるものというのが実は鴉。それもある人物の企みによって生み出されたおそるべき存在であり、冒頭のプロローグでは、本作のヒロインとこの殺人鴉との出会いが描かれていきます。
そして時を経て、陰惨な殺人事件が発生し、再びヒロインはこの殺人鴉と邂逅するのだが、――というところからが本筋で、この殺人鴉を調教していたネクラ男とヒロインとの死闘がこの後大展開されるのかと思っていたら何と、この真犯人は飼い犬に手をかまれるような格好であっさりとご臨終。その前には映画映えする鴉の殺人シーンがバシバシと描かれてい、鴉を操る男の狂気にはなかなかクるものがあったので、この真犯人の呆気ない途中退場はかなり意外でした。
もっともプロローグはもうひとつの主人公たる殺人鴉の視点から描かれていたことを考えれば納得で、このあとは完全に制御するものを失った殺人鴉たちの大暴走が始まります。中盤にはヒロインの学校が襲撃され、そこからは彼女と刑事というコンビにちょっと頭のネジが外れた駆除業者の野蛮人までもが参入して鴉との死闘が続くのですが、事件の鍵を握るかに見られていた真犯人があっさりと死んだのに続き、メインキャラが次々と命を落としていく展開はかなり非情。
脚本家として活躍してきたというわりには、前半からメインキャラの人物背景を説明するのにただ逸話をズラリズラリと並べていくという、さながら動物行動学者が観察対象である動物の行動をメモしたものを書き写したかのような風格にかなりの違和感を覚えたのですが、本作が人間の視点から描いたものではなく、鴉と人間を等位置から見つめた物語であると考れば、皮相的とも批判されかねない、こうした本作の人間描写も腑に落ちます。
これが映画だったら最後にご臨終となるこの人物の死はないだろう、と思わせるほどの非情な結末を迎えるわけですが、それとともに人間側に残されたものの甘さと、鴉の側に残された邪悪とを対照させたラストは秀逸です。ただ繰り返しになりますが、本作は人間側から描かれた物語ではなく、鴉と人間とを等しく俯瞰した視点から描かれた物語であることを理解できないと、登場人物たちへの感情移入を頑なに拒んでみせる皮相的な人物描写やあっけない死に納得がいかない読者もかなり多いのではと思うのですが、いかがでしょう。
終盤の非情な展開は、昨今の癒やし系がもてはやされる風潮の中で映像化するには大きなハードルとなりえるのではないかと推察されるものの、鴉に腸をえぐられて、ビクッビクッと痙攣するシーンや、目玉をくりぬかれてギャワーッ!となるシーンなど、”ひばり”っぽい描写は全編において冴え渡り、さらに後半には、ヒロインが潜入する敵のアジトの恐るべき美しさを見せるシーンが用意されていたりと、たぶんに映像的な趣向の連打は、映像畑での仕事をこなしてきた作者の本領発揮ともいえ、スピード感溢れる展開とあわせて、そうした作者の技芸を堪能するのも吉、でしょう。
西村寿行の『滅びの笛』や『蒼茫の大地、滅ぶ』の雰囲気を期待するとアレですが、映像美に溢れる風格は多分に現代的で、角川ホラーにふさわしい逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。