の・ぞ・く――天窓の下 / 宇佐美まこと

の・ぞ・く――天窓の下 / 宇佐美まこと先日とりあげた『愛玩人形』に続くエロ怖シリーズ、宇佐美まことの一冊です。『愛玩人形』もエロっぽいサイコホラーとしてもかなりのハイレベルな逸品でしたが、こちらもなかなか。堪能しました。

物語は、――とある天窓のある屋敷へと引っ越してきた夫婦。旦那は前の持ち主が残していたと思しき手記を見つけるのだが、そこには淫らで恐ろしいことが記されていて、――という話。手記の写しという過去と一人称で綴られた語りの現在が交互に進んでいくといいう展開は定番中の定番ながら、本作ではネチっこい筆致で綴られる過去の手記がかなりイケており、天窓をのぞき窓として下の夫婦の秘め事に欲情する性的不能者という気持ち悪さが大いにマル。

今回は男性視点からということもあってか、下の住人の秘め事の描写からそれにムラムラする変態男のネチっこさなど、男性読者もエロ小説として十二分に愉しめる趣向になっているところも素晴らしい。しかし『愛玩人形』もそうでしたが、宇佐美女史の描き出す変態男の気持ちワルイ造詣がこれまた半端ではありません。

『愛玩人形』に本作に登場するのは、いずれも性的不能から変態の煉獄へと堕落した男たちなのですが、前回は人形遊びで今回は覗きと、エロに絡めた変態道に知悉したモチーフと細部の描写を、短編ながらタップリと堪能できるところだけでも十分に買いでしょう。また本作では、ある本格ミステリ的な仕掛けがあり、この仕掛けが明かされた瞬間、事件の構図が反転し、それによって哀切たる怪異の存在が明かされるという結構は、ホラーとしてではなく、ミステリとしても愉しめます。

エロにミステリ的な趣向と反転を添えた作風といえば、まず戸川昌子女王を思い浮かべてしまうのですが、本作をもってして、宇佐美女史はまさに「平成の戸川昌子」の最有力候補といってもいいのでは、――と、そんなことを考えてしまいました。……というか、前からさりげなーくこのブログでも主張していることではありますが、なぜ、ミステリ界隈の編集者が宇佐美女史に本格ミステリを書かせないのか不思議でなりません。

エロという点では、『愛玩人形』に岡部女史の『瘡れ島――腐りゆく白い女』といずれも女性主体、エロとセックスは女がイニシアチブをとるべし、というスタンスで書かれたものでしたが、本作は上にも述べたとおり語り手が男性ということもあって、妻にセックスを仕掛けるのも男、そして謎が解かれ、過去の事件の真相が明かされたあとに、ブラックなオチで煉獄の入り口へと立たされる人物もまた男と、男性読者だからこそそのエロさと黒さを愉しめるつくりになっています。

本格ミステリ的な仕掛けあり、エロもあり、仕掛けによって怪異の意味合いを反転させる見せ方といい、まさに本格ミステリ読者にとっては格好の「エロ怖」レーベル入門となりえる本作、宇佐美女史の作品を未読の読者はもちろんのこと、是非とも本格ミステリ読みの方にも手に取っていただきたい一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。