愛玩人形 / 宇佐美まこと

愛玩人形 / 宇佐美まこと先日取りあげた『三浦怪談』をきっかけに、電子書籍もミステリだけではなく、怪談とかで面白いものがないかナ、……と探していたときに見つけた本作、何だかジャケは完全にレディコミ調で、一見しただけで手に取るのをためらってしまうのですが、作者はあの『るんびにの子供』『虹色の童話』といった傑作で知られる宇佐美まこと、――これは読まねばということでひとまず購入してみた次第。ボリュームは中編か短編といったかんじですからコンパクトで、Reader™ Storeでの価格は315円とお試しで読んでみるにも最適な値付けがされているのもイイ。

内容はというと、――とあるフリーライターの女がキ印の人形コレクターの元を訪ねていくと、そのキ印男曰く、何でも彼は人形が話していることが判るという。そういって取りだした人形のひとつに彼女は見覚えがあって、……という話。

ノッケから半地下の部屋にキ印男の蒐集した人形がズラリと並んでいるシーンが描かれていたりと、ホラーっぽい出だしも盤石ながら、本作ではそこに人形と人間、加虐と被虐というふうに相対するものが狂気と恐怖によって劇的な反転を見せる構図が素晴らしい。ヒロインが見つけてしまった人形の過去の曰くが語られていくうち、彼女の内なる秘密が明かされる展開に、岡部女史じゃなくて宇佐美女史にエロとはこれいかに、とブッたまげてしまうくらいの淫靡な描写も織り交ぜて、和人形に絡めた暗黒エロスは夢野久作か、はたまたその変態エロスの粘着質にして幻想的な美しさは宇野鴻一郎かと、感嘆してしまうほどの素晴らしい展開で魅せてくれます。

やがて女の隠されていた過去とともにある淫靡な事件の影が匂いたち、そのフーダニットが明かされる見せ方は、確かに人間の狂気とエロスをモチーフにした恐怖小説の趣で、ジャケ画のレディコミ風味は感じられません。むしろキ印野郎の”お遊び”にあわせてヒロインが妖しく踊る描写などはひばり風味が濃厚で、コガシン先生の画でこの物語が語られてもおそらく違和感はまったくナシ。

操るものが操られ、人が人形へと変化する入れ替わりの反転の妙は、まさにミステリの技巧を会得して華麗な怪談をものした宇佐美ワールドで、短いながらも非常に濃厚な官能と狂気を堪能できる一冊といえるのではないでしょうか。オススメです。

で、この本、何でも『幽』プロデュースの「エロ怖」というレーベルの一冊らしく、これで検索をかけてみると、出るわ出るわ(爆)。岡部女史の作品も数冊見つけることができたので、これはゲットせねばッ!とさっそく手に入れた次第。しかしコレ、自分みたいな中年のロートルが手に取ることがあるのかどうか、……おそらくはレディコミの読者あたりをターゲットにしたものと推察されるものの、宇佐美、岡部といった怪談の手練れの作者の新作が読めるのであれば、見逃すわけにはいかないでしょう。