アニスタ神殿記 / 佐伯香也子

アニスタ神殿記 / 佐伯香也子傑作。室井亜砂二の推薦文で、歴史的怪作『家畜人ヤプー』に比肩する作品と書かれていたことから興味を示して読み始めたのですが、素晴らしい。ヒロインを初めとする美しき女たちがヒドい責め苦を受け続けるという表層上の展開だけを取り出せばSM小説ではあるものの、執拗に繰り返される拷問の背後に隠されたモチーフと、拷問を耐え抜いたヒロインの解脱を巧みに重ねて世界の深淵を描き出した企みは紛れもなくSFや幻想小説に近接した趣を醸しており、特に最後の真相とでもいうべき結末に、永井豪の『デビルマン』を想起してしまったのは自分だけではないと思うのですが、いかがでしょう。

物語は、空に浮かぶ島・アニスタに棲む神人の捧げ物となった女たちが、想像を絶する拷問を受け続ける、――という話なのですが、神人の奇想溢れる拷問技のバリエーションが秀逸です。獣人を用いて女体を徹底的に破壊し尽くしながらも、再生によって再び肉体を元に戻され、また拷問が繰り返される、――という、まさに無間地獄としかいいようのない展開も壮絶なのですが、フツーに女が虐められて感じてしまうSM小説を読みたいモン、だって俺ドSだから、――なんていうパチモンのSM野郎にその描写はハードに過ぎるかもしれません、……というか、自分もそうしたシーンの数々はあまりに痛々しくて読み通すのにかなりの苦行を必要としたことはここに告白しておくべきかもしれません(爆)。

とはいえ、本作はただ単にハードな責めを書き綴るのが目的ではなく、いうなれば、責め苦の彼岸にある『何か』を描くことが本懐であり、そうした意味でもSM小説の外観を備えつつ、その企図はかつての幻想小説、……いや、むしろ、ミステリやSFといったジャンルが未分化だった奇想の時代の物語の末裔というべきかもしれません。

「アニスタ神殿記1」では、ヒロインがひたすら神人からのヒドすぎる拷問に堪え忍びつつも、仄かな思慕を抱く再生医のボーイといいカンジになって、ここからの脱出を試みるのだが、予想(期待)通りに捕まってしまい、さらなるヒドい責め苦を受けるハメに、――という物語。続く「アニスタ神殿記2」は、逃走を試みたヒロインが最下層に落とされ、今まで以上のヒドい目に遭うことになるのですが、一緒に逃走を試みたボーイが醜い獣人へと変えられ、その拷問に一役買うことになるという展開がかなり辛い。しかしこのSM小説では定番の脱出失敗からの流れにもまた、ある者の深慮がはたらいていたことが明かされる後半から、物語は一気に加速していき、最後に壮大な世界の真相が明かされるという結末は素晴らしいのひと言。自分のようなロートル世代で『デビルマン』や佐々木淳子の『那由多』にハマった人であれば、この荘厳な結末はかなり納得できるのではないでしょうか。

最後の「アニスタ神殿記3」についてですが、――本作を拷問小説として愉しめた人であれば手に取る価値はアリですが、自分のように本作の世界観に痺れて、「アニスタ神殿記2」の結末で十分に満足できた人であれば、あまり読み甲斐はないような、……と思ってしまったのはナイショですが(爆)、「やっぱりこういうのはひたすら拷問、拷問、また拷問でなきゃ!」なんていうまさに”真性”の御仁であれば、「アニスタ神殿記2」の後日譚とでもいうべきこのサイドストーリーを愉しめるかもしれません。とはいえ、ラカンを引き合いに出して女性のM性についての深い洞察と考察を極めた巻末のあとがき「M女は何故拷問を好むのか」は必読。というか、むしろ「3」の本文よりもこちらの方が俄然愉しめてしまったのはまたナイショです。

また激しすぎる拷問シーンは獣人を用いたりと完全にファンタジーへと突き抜けているものながら、要所要所で酢や唐辛子といったリアル世界でのブツが用いられているというギャップも微笑ましく(爆)、かなり読者を選ぶこと確実という作品ながら、血しぶきと痛みに耐性の薄いナイーブな本読みの方とても、拷問シーンを軽くスルーしながらこの幕引きを堪能するべき逸品といえるのではないでしょうか。オススメです。