日本の妖美 橘小夢展@弥生美術館

日本の妖美 橘小夢展@弥生美術館現在、本郷の弥生美術館で開催されている本展ですが、幻想文学を偏愛する御仁であれば必見でしょう。何しろあの「水魔」の実物を観ることができるというだけでも素晴らしいのですが、そのほかにも「刺青」、「花魁」、「ガラシャ昇天」、さらには皆川博子の『花闇』の表紙絵ともなった「澤村田之助」など、本などで眼にしたことはあるけど実物は、――という作品をまとめて堪能できる機会など滅多にないわけで、このGWの合間をぬって足を運んだ次第です。

弥生美術館は、二年ほど前の『村上芳正展』以来だったのですが、GWの都内ということもあって人も少なく、かなりジックリと見ることができました。個人的には上にも述べた通り一番の目的は「水魔」だったのですが、これが思っていたよりもかなり小ぶりな作品で、一階の展示を入ってすぐ右のところにひっそりと掲げられていました。小ぶりといっても、そのくすんだ色の背景から立ち上ってくる妖しさはやはり絶品で、これだけでも来た甲斐があったというもの。とはいえ、今回の展示ではこの「水魔」のほかにも、目も眩むほどに色鮮やかな大作「花魁」や、女の狂気と艶やかさを凝らした面立ちが見るものを引き込まずにはいられない「ガラシャ昇天」、さらには「刺青」のおぞましいとしかいいようのない闇に浮かぶ蜘蛛の模様がタマらない「刺青」など、見所は尽きません。

さらには、蛇となった清姫と美しき僧侶・安珍の構図が素晴らしい「安珍と清姫」に見惚れ、緊縛絵では「雪姫」のうなじから撫で肩へと続くラインの艶やかさにニンマリしつつ、緊縛姿で火あぶりに甘んじる「八百屋お七」の点描の美しさなど、ホンモノの緊縛マニアも必ずやその美意識にグッとくるような逸品が展示されているところも見逃せません。

しかし実をいうと、今回の展示で一番強く心惹かれたのは、橘小夢の孫である橘明氏のドールで、一階の会場を入って右手一番奥にひっそりと飾られていたのですが、この九尾の狐の化身が何というか、……萌え死ぬほど可愛いかったです(爆)。自分はビスクドールとか球体関節人形といったものにはあまり興味もなかったのですが、この明氏の人形にはヤられました。何かヤバい趣味に目覚めてしまいそうなほどに蠱惑的だった、ということを付記しておきましょう(苦笑)。

なお、本展の会期は六月二十八日の日曜日まで。会場では河出書房新社から刊行されている『橘小夢 幻の画家 謎の生涯を解く』を手に入れたのですが、この本、橘小夢の類い希なる美意識とその出自を辿り、作品の理解を深めるにはまさに恰好の一冊ともいえ、図録よりもお手頃価格。展示をひたわたり見終えたあと、本作を手に取ってその余韻に浸るのも一興ではないでしょうか。こちらもオススメです。