何か復刻本の電子書籍で面白そうなのないかなァ……とアマゾンを漁っていたら、ここにいたって友成純一の迷作がダダーッとリリースされているのを知って、どうしたものかと悩んでいる次第、――と書きつつもとりあえず今日はコレを(結局買ってる)。
あらすじは、ホラー映画評論家の男の周囲で、彼が以前に発表したホラー映画ベスト10として掲げた作品の見立て通りにスプラッターなコロシが発生し、――という話。第一、第二の殺人と評論家と一悶着あった人物がヒドい殺され方をしている時点から、まず彼が疑われてしまうのですが、当然彼はやっていない。真犯人は別のところにいるわけですが、そこは友成小説。『殺人事件』とタイトルにあるからといって、正調なフーダニットを本作に求めるのは御法度です。
むしろ本作は、ホラー映画の見立てで殺されていくシーンが登場するたびに、作者が前に出てきて件の映画の名シーンの解説をしてくれるという、ホラー映画のビギナーにも優しい仕様が物語の展開にシッカリと盛り込まれているところでありまして、こうした作者の解説の中にも、例えば『悪魔のいけにえ』”以前”と”以後”のホラー映画の変化についてや、『スキャナーズ』では本作の見立てにも使用された”爆発”シーンが、本来であれば映画の冒頭にくるべき筈だった、などという豆知識も披露して、映画の興趣をもり立ててくれるところにも注目でしょうか。
――とはいえ、一応タイトルにも「殺人事件」と銘打っているからには、フーダニットについても言及しておくと、いかにもありがちなキ印が犯人でしたァ、というネタながら、その人物がなぜ見立て殺人を行うにいたったのか、心酔する評論家への愛憎を交えた心理描写が軽妙な筆致で語られ、ヒロイン(?)も活躍も見せる大捕物から、最後の最期で犯人の今後を予感させるラスト一文がホラー映画の某作品と見事な重なりを見せるところは秀逸です。『13金』のジェイソンに『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスなど、スプラッター映画のヒーローをリスペクトして、様々な変装でコロシを完遂した犯人が最後はどの怪人物に変貌を遂げたのかを予想してみるのも一興でしょう。
また事件が終わり、犯人の正体が明かされたあと、主要なホラー映画のシーンをトレースして見立てを行っていたかに見えた犯行に対して、主人公がいかにも評論家らしくその細部に駄目出しをしてみせるところなど、ハウダニットのディテールにこだわったところは作者の真骨頂。
読者をかなり選ぶし、実際よほど暇でないと読む価値さえない、と一蹴した方が話が早いという代物ながら(苦笑)、とりあえず『死霊の盆踊り』を大画面テレビにカブりつきで観るよりは有益な時間が過ごせるのではないかと推察される本作、あくまで暇つぶしに忙しい御仁限定でオススメ、ということで。