プランタンの優雅な退屈 / 大森 葉音

プランタンの優雅な退屈 / 大森 葉音評論家・大森滋樹氏による葉音名義のミステリということで、難解な作品かな、と思って読み始めたら存外に軽くてまず吃驚。実をいうと最後までこの物語世界に馴染めず、正直、本作をトテモ愉しめたとはいえないのですが、「基本問題」と「応用問題」と二つの問題を明示しているところから、密室構成のハウダニットに注力した作風と思わせておきながら、実は最後の最後、謎解きが終わったその後の展開と真相開示にはおおッ、と膝を打った次第です。密室ものとしては意外な変化球といえるカモしれません。

物語は、架空の王国の王女様が退屈凌ぎに密室事件の謎解に挑むのだが、――と、単純にまとめてしまえばそんな話。架空の王国ながら、空間エネルギーなるものの蘊蓄も交えてエネルギー問題が王国存続の重要な鍵を握っているところなど、今日的な話題がさりげなく盛り込まれているところが不思議テイスト。とはいえ、王女様の調子っパズレというか、おきゃんなキャラや、彼女に付き従うSSのボーイなどとのやりとりなどはかなり漫画チックで、冒頭に描かれる「基本問題」なる密室事件のネタにいたっては完全に某ホラー映画を彷彿とさせる脱力ネタ、――というあたりから、いったい作者はどこまで真面目に密室トリックというものについて考えているのか不安になってくるのですが(爆)、そんな読者の杞憂などお構いなしにまたもや第二の殺人が発生。こちらは「応用問題」とあるところから、こちらの密室トリックが本丸かと推察されるのですが、ここでは硝煙反応など定石ともいえる科学的知見を取り入れて、丁寧な推理が展開されていきます。

しかし、実際に明らかになったトリックはというと、――これも何というか頭を抱えてしまうネタながら(爆)、しかしこの「応用問題」と「基本問題」は、いみじくも表裏をなすような形をなしており、この美意識が素晴らしい。「応用問題」の「応用」という言葉はむしろ読者を誤導するためのもので、同じ脱力ネタを並列させながらも、よくよく二つを対蹠させることで際だつそのトリックの趣向が非常に興味深いものに仕上がっています。

実をいえば、フーダニットの謎を早々に放擲して、密室のハウダニットに読者の注意を向けながら、その中で動機以上に、今日の本格ミステリにおいては重要事項ともいえる「なぜここまで密室にこだわるのか」という点については、王女様の堂々巡りを繰り返す推理の中でもさりげなくスルーされているところこそが、いわば本丸の仕掛けともいえ、犯人の本当の狙いが明かされたあと、王女様大ピンチというサスペンスもまじえて物語は終盤へと向けて突き進んでいきます。

全体としてはドタバタが際だつ風格で、架空の王国という物語世界や、キャラの漫画チックな要素など、少しばかり人を選ぶ作品ではないかなァ、――という気がするのですが、「今、密室ものを書く」ということに対して、格別の美意識とその今日的意味についての考察が感じられる仕掛けの趣向と構成には一読の価値アリ、といえるのではないでしょうか。自分のような偏屈な本読みにはやや取り扱い注意ながら、こうしたファンタジックな物語世界に慣れたヤングであればかなり愉しめるものと思います。