救済のゲーム / 河合 莞爾

救済のゲーム / 河合 莞爾傑作。『ドラゴンフライ』『ダンデライオン』とまさに御大直系の、類い希なる”幻視”の才が生み出す豪快トリックで魅せてくれた作者の過去作に比較すると、ピンホールに串刺しにされた死体という謎の様態はやや控えめ。しかしながら本作の場合、登場人物たちが織りなす情景と、その事件の構図が明かされたあとの「切なすぎる真相」が今まで以上の素晴らしさで、堪能しました。

物語は、北米先住民の虐殺の地、という曰く付きの場所につくられたゴルフ場で、伝承の見立てとしか思えない死体が発見される。果たしてその犯人と動機はいかに、――という話。

虐殺の逸話をまずプロローグに持ってきて、さらにはそのエピソード自体がめっぽう面白いというあたりも、御大直系の才気をビンビンに感じさせるわけですが、本作の探偵役を務める日系人のゴルファーとワトソン役ともいえるべらんめえ調のメリケン男との掛け合いがもう最高。御手洗・石岡コンビとの比較でいえば、どうも探偵役のボーイには日本武術の心得もありそう、ということで、その意味では御手洗以上により本家のホームズに近いといえるカモしれません。またふとしたことから天啓を得て推理を始める天才ぶりも御手洗っぽいんですが、本作の探偵はもう少し控えめで常識人(爆)。また主要キャラという点では、捜査を先導する警部の造詣も素晴らしい。彼自身も相当に頭がキレる逸材で、警察関係はおしなべてボンクラといった昔フウのミステリーではありません。

秀逸なキャラたちの台詞回しと展開を追いかけていくだけでも本作は十分に「物語」として愉しめるのですが、もちろん本格ミステリーとしても魅力も兼ね備えています、――とはいえ、『ドラゴンフライ』『ダンデライオン』ほどド派手なトリックが炸裂するわけではないので、本格ミステリーのトリックが作品の善し悪しを決めるすべてであるという読者にはやや物足りなさを感じてしまうカモしれませんが……。

本作の優れているところは、まず事件の容疑者としては最有力候補として誰もが考えてしまう人物が、過去の試合で見せた不審な行動についての謎を前面に押し出して物語を進めていく前段と、その謎が解き明かされたところから、推理の力点を現在進行形の事件へと切り替えていく展開のうまさでしょうか。また中盤以降にもう一つの死体を登場させることで、伝承の見立てと思われる”連続”殺人事件への誤導を盤石なものとし、真犯人を容疑者の圏外へとはじき出してしまう構図の作り込みには関心至極。確かにこの仕掛けについては、多くの先例があるとはいえ、本作ではこれを敢えてアリバイトリックとせずに、フーダニットの誤導に用いたところが秀逸です。また現在進行形の事件のトリックを解き明かすことで、作り話に思えた伝承の不可思議な現象にも現実的な解を与えてしまう重ね方も御大風。

真犯人が探偵の口から明かされ、今回の陰惨な事件のきっかけとなった出来事を引き起こした人物についてもその罪を決して糾弾することなく、ゴルフのルールを引用して探偵が赦しを与えて幕とする終わり方も素晴らしい。いかんせんゴルフという特殊世界でのお話しゆえ、果たして続編はあるのか、あるとしたらやはりゴルフ・ミステリー(?)になるのか否か、まったく判らないのですが、この秀逸なキャラの探偵とワトソン役のキャディーには再登場いただき、シリーズ化していってもらいたいと願ってやみません。

“仕掛け”によって人間ドラマを描き出すのが本格ミステリー也、という考えをお持ちの方であれば、作者のファンならずとも本作は、――否、本作”も”また買いといえるのではないでしょうか。オススメです。

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