シリーズ第三作。『首洗い滝』に『鬼の蔵』と、怪異の背後に見え隠れする因縁を繙いていく本シリーズの魅力は、怪異そのものの物理的仕組みを解き明かすのではなく、物件が抱える業と過去の縁を重ねて、人々の哀しき物語を紬足していくその結構にあるわけですが、本作ではそこに曳家の仙龍へホの字になったヒロインの心の変化などを巧みに描き出してシリーズものとしての魅力を二倍増しにした趣向がとてもイイ。
怪異を調査する過程で繙かれていく因縁話についても、因縁物件に現れる幽霊は女なのに昔語りに登場する幽霊がキ印男なのはなぜなのか、とか、幽霊とおぼしき女の名前と因縁話との整合がつかない割り切れなさなど、ささやかな謎の数々がヒロインの幻視も交えて後半部で明かされていく展開が巧みです。これが本格ミステリであれば、はっきりスッキリと綺麗な絵図が描かれないもどかしさに悶々としてしまうのでしょうけれども、この明快なかたちで描かれない歪さが却って怪談としてのリアリティを増しているような気がするのですが、いかがでしょう。
シリーズを経るたびに眼の前へと立ちはだかる問題がいよいよ難しくなっていくというお約束通り、今回は仙龍の父親も成仏させることができなかったという厄介な怪異に対して、仙龍とヒロインたちはいったいどういう始末をつけるのか、――因縁の深さとそれに関わった人々の多さに策を見いだせないなか、『首洗い滝』と同様、ある生者の存在と業が主人公達に一筋の光明を与えるという後半部の変転から、一気に因縁切りの儀式へと突き進んでいく展開は期待通り。
特に今回は、仙龍に対する恋慕と嫉妬心に加えて、サニワとしての技倆をさらにパワーアップさせたヒロイン春菜の機転を利かせた振る舞いが仙龍を救い出す、という見せ場も用意されてい、今後の二人がどうなっていくのか気になるところではあります。さらにはチラッと意外なかたちでヒロインの前に姿を見せる仙龍の父親の姿やその意味など、ヒロインの人間として、さらにはサニワとしての成長譚の魅力もさらに増した本作、前二作を読了済みの方にはもちろん、まだ未読の方にとっても十分に愉しめるのではないでしょうか。オススメです。
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