少女を殺す100の方法 / 白井智之

メチャクチャ(褒め言葉)。『おやすみ人面瘡』でより平山ワールドっぽい鬼畜グロワールルドへと傾倒していった作者の最新作。今回は短編集で、いずれも短編も、タイトル通りにとにもかくにも少女たちが理不尽なほどにグッチャグッチャに殺されまくる、――というもの。収録作は、学校の教室で発生した少女大量殺人の真相を様々な叙述法で綴りながら二転三転させていく「少女教室」、閉鎖された空間であるルールにしたがって殺されていく少女殺人の背後に隠された悪意「少女ミキサー」、本格ミステリ的なロジックのありようを逆手にとって斜め上を行く推理がバカミスへと突き抜ける「「少女」殺人事件」。父親が遺したビデオ・レターに語られるある人物の出生の秘密「少女ビデオ 公開版」、少女が空から降ってくるという不条理が起こる閉鎖的な町の因習に隠された秘密「少女が町に降ってくる」の全五編。

もっと明快に本格ミステリらしい体裁を保っているのは「少女教室」と「「少女」殺人事件」くらいで、ほかは謎解きや仕掛けを軸に話が展開していくというよりは、不条理やグロをベースに奇妙奇天烈な物語世界にただただ翻弄されるばかりという、――どちらかというと怪奇幻想小説的な風格に近い物語で、このあたりか読者をかなり選ぶような気がします。

個人的に偏愛してしまいたいのは、収録作の中ではもっともシンプルともいえる「「少女」殺人事件」で、怪獣が物語世界を跋扈していたりという「??」というディテールはともかくスッ飛ばしても、読者への挑戦状をつけた犯人当てミステリの骨格にメタ的趣向を取り入れた一編、――と油断させておきながら、リアリティのある筋の通った推理を、本格ミステリでしか通用しないトンデモ・ロジックによって吹き飛ばしてしまうという、華麗な卓袱台返しがステキです。ヤケクソとしかいいようのないこの推理は、しかしながら当該”ルール”を厳格に当てはめていけば、真相はこうならざるをえないという爆笑もの。本格ミステリのマニアほどこの真相のアレッぷりには思わず苦笑してしまうという逸品です。

「少女ミキサー」も、謎空間に閉じ込められてしまった少女たちが、迫り来る死の秒読みの中で、不審死を遂げた少女の謎にアプローチしていくというもの。少女たちの会話やさりげない逸話の中に鏤められた伏線をフーダニットの推理の過程で解き明かしていく趣向が面白い。そして情け容赦ない結末へと突き進んでいく暗黒ぶりなど、まさに平山ワールドの鬼畜ぶりを彷彿とさせる路線が個人的にはとてもイイ。

「少女ビデオ 公開版」もグロという点ではかなりのもので、殺す、殺されるというよりはその「後処理」に焦点を当てたアレがかなりアレ。もっとも隠語を使ってはいてもこれがアレだということは丸わかりなのですけど、別にこのアレって設定は別になくてもよくなくね? ……という印象などおかまいなしに、良識な読者の神経を逆撫でするグロッぷりを惜しげもなく大披露してみせる作者の狂気が凄まじい。

「少女が町に降ってくる」は、タイトル通りに少女が町に降ってくるという怪異を物語世界の背景に絡めながらも、この謎を軸にして物語を進めていくわけではなく、主人公とこれまたちょっと頭のイカれたっぽいアウトサイダーたちとの交流や、鬼畜な人間どものありようを絡めつつ、さらさらっとした筆致でズンズン展開していく趣向が面白い。少女が町に降ってくる怪異そのものではなく、その中にさりげなく添えられた法則とその綻びから、物語の背景に隠されていたある事柄を解き明かしていく後半部の展開が面白い。物語世界が明かされたのち、主人公の生い立ちまでもが鮮やかに浮かび上がり、そこから絶望的なハッピーエンドを軽く添えて幕とする構成がなんとも不思議な余韻を残します。

無理矢理に見える不条理な物語の設定が本格ミステリのロジックへ奉仕するという、――以前の長編に比較すると、そのあたりの縛りはやや後退しているように感じられるものの、これもまた短編ゆえカモしれません。異世界本格の技法を突きつめた次なる長編を期待したいところでありますが、その繋ぎとして、作者のグロがむしろ心地よいという奇特な読者であれば、かなり気に入るのではないでしょうか。その個性的に過ぎる作風ゆえ、あくまで取り扱い注意ということで。

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