シリーズ最新刊。新章突入という感じで、隠温羅流の謎に迫る出雲編、――かと思いきや、ヒロインが出雲大社詣でをすませたらほぼとんぼ返りで長野に戻ることに。今回の怪異は今までのような過去のものではなく現在進行形というところがミソでしょうか。
物語は、ヒロイン春菜が務める会社で髪の毛がバラバラッと散らばっている怪異が発生。さらには雪女のような白装束女が徘徊しているとも。やがてヒロインの上司と不倫していたカノジョが不審死を遂げてから、さらに怪異はエスカレート。果たして哀しき不倫女の呪いを解くことはできるのか、――という話。
本作、シリーズ中でもっとも伏線と怪異に立ち向かう戦略との重なりが素晴らしく、考え抜かれた構成にまず吃驚してしまいました。冒頭、深夜の会社での怪異がさらさらっと描かれ、ヒロインの出雲での探索の下準備が続けて描かれているのですが、このなかで言及されている『吉備津の釜』の物語が、やがて現在進行形で語られる呪いと繋がっていく結構が素晴らしい。
『吉備津の釜』で語られている哀しき女の業と同時に、幽霊の特性・特徴を考慮した呪い封じの対策を隠温羅流ならでの力業で構築していく後半の展開は最高にスリリング。現代女の幽霊が鬼になるとどうして古めかしい語りになるのかナ? なんて妙なところに目がいってしまったのですが(爆)、そのあたりは言うなれば本シリーズならではの格調高い趣向と見なせば納得で、お約束通りに無事呪いは解除されて男は救われるものの、今回の被害者たる男はパグ男を上回る最高のクズ男であるところにご注目。
今までのヒロインであれば、パグ男以上のクズ男に同情などする筈もなく、勝手にしろ、で終わったはずが、今回は菩薩のごとき心で鬼の魂に対峙するところにはホロッと来てしまいました。本作は、隠温羅流の謎を解くという大きな軸と平行して、サニワとしての自覚を持ち、その大きな謎に立ち向かうヒロインの成長譚でもあることを強く意識させる内容でした。
次回はまた岡山編ということになるかと思うのですが、ヒロインの前に現れたある「神」(?)の存在など、それがどんな因縁譚と繋がっていくのか、とにかく目が離せません。なお、本作では冒頭に簡単な登場人物の背景説明がくわえられてい、ここから読み始めても没問題という親切設計になっているゆえ、何か面白そうだナ、と感じたビギナーも安心して手に取ることができる一冊に仕上がっています。超オススメ。