先週、映画『返校』を観に行ってきたので、「観てから読む」で本作を読了。結論から言ってしまうと、角川ホラー文庫というレーベルに期待していた風格とは大きく異なる一冊でした。
物語は、都会から田舎の学校に転校してきた娘っ子が、旧校舎で生徒の自殺を目撃してしまう。それをきっかけに彼女はこの学校に棲む悪霊に取り憑かれてしまい――という話。
舞台は映画と同じ学校ながら、時代背景は異なってい、映画では戒厳令の時代だったのが、この小説では台湾大地震の後ということになっています。そしてヒロインに取り憑く悪霊が、映画では王淨の演じる方芮欣。ヒロイン視点で描かれているため、あくまで方芮欣の心情やその背景は物語の前半においては窺い知れない。したがって、映画を見ていないと「この女は何者なのヨ?」ということにもなりかねないので、本作を手に取るのではあれば、映画を先に見ておいた方が𠮷、でしょう。
映画『返校』は、白色テロの化け物が登場したり、麻袋をかぶせられた首吊り死体がブランブランしてたりと、かなりショックなシーンが多いのに比較して、この小説ではそうしたホラー文庫に相応しい情景はナッシング。むしろヒロインの心情に寄り添った純文学小説的なシーンが多く、このあたりはやや戸惑うところかもしれません。
悪霊に取り憑かれたヒロインを救済するべく、彼女の友達で家系が道士というボーイが登場するのですが、彼が悪霊退散の技法を駆使して除霊をするわけでもなく、後半にホラー映画では定番ともいえるド派手な立ち回りも期待できないところがちょっとアレ。
後半三分の一ほどになって、ようやく方芮欣の過去や、彼女の周囲の人物との逸話が描かれていき、映画との繋がりが明らかにされるものの、やはり物語の視点は方芮欣ではなく、道士の友達を持つヒロインに固定されたまま。軍人の父と観音信仰にのめり込むキ印の母親から過大なストレスを受けている方芮欣とはまた違った意味で、日々の生活での抑圧に苦しんでいるヒロインの意識が重なりを見せ、現実と夢・幻想をあわいを漂う展開は非常に静的。映画では明らかにされなかった魏仲廷がどんな人物だったのか、そして映画のラスト・シーンの背景が明かされているところは秀逸です。
総じて映画とは主要登場人物も異なり、ホラーな展開は少ないため、映画の激しさを期待するとちょっとアレ、ながら、まったく別物の、もうひとつの物語を純文学的筆致で描いた一冊として見ればまた違った魅力を感じられるのではないでしょうか。
なお、映画ですが、先々週に公開されたものの、自分の地元の映画館では早々にスクリーンが小規模なものに変わり、上映回数も減ってしまいました。自分が観たのは平日の夕方だったのですが、客は自分たちのほかは一人だけという惨憺たる状況で、これは今月末まで持ちこたえてくれるだろうか、という感じでした。映画の方は色々と「激しい」ものながら、ゲームが原作の映画の方は、ゲーム空間のごとき悪夢的な情景や、わけても王淨の超絶的な可愛さなど、一見の価値アリ。小説の方は、映画のストーリーを面白いと思って読んでみたい、と興味を持たれた方には取扱注意ということで。