路地居同心、目の用心 / 倉阪 鬼一郎

実は少し前に現代本格の作家の時代物を読んでいたのですが、どうにも(文体に?)ノれなくて挫折してしまいました。何だかこのままだと時代物アレルギーになりそうな気がしてきたので、気軽に読めそうなもので何かないかナ、と適当に探して見つけたのが本作。結論から言ってしまうと、時代物に擬態したクラニー小説でした(爆)。

物語は、路地居同心なる「さまざまな難事件を解決してきた」謎解き師が、池の中の島で起こった密室殺人や、挑戦状を叩きつけてきた死神小僧が忽然と姿を消す怪事件や、骨董市での不可能犯罪、見世物小屋めく場所での最終神の正体などを解き明かすうち、クラニー式のある「仕掛け」が炸裂して、――という話。

一応、第一話「中の島、死の茶会」から第五話「最終神出現」までは、一話完結の謎解き話になっていて、第一話「中の島」のトリックなどは、自分が挫折した某作の第一章のアレを彷彿とさせるもので、うわッとなってしまったのですが、いずれも「目の用心」というタイトルにちなんだ“あるもの”が大きく絡んでいるところが本作の見所でしょうか。

クラニー・ワールドらしく、そうした仕掛けがある図を添えて明かされるところにニヤニヤできるか、「そもそも時代物でこんなことしていいノ?」と頭にクエスチョンマークが湧いてしまうか――第五話を終えたあとの「謎解き」からが本番で、行儀の良い読み手をスッカリ置き去りにしつつ、強度のサンプリングを効かせて大展開されるメタ趣向は『文字禍』を思わせる精妙な仕上がり。

もっとも冒頭から、「さまざまな難事件を解決してきた」謎解き師の存在がどうにもふわふわと頼りなく、これは何かあるんじゃないかァと思っていたら案の定。とはいえ、まさか時代物にこんな馬鹿げた仕掛けはあるまい、と苦笑する暇もなく、最後の「荒野」では眼の前の風景が消失していく怖さを文字だけで(文章だけで、ではない)活写した悪乗りはクラニーならでは。

どうも本作、「電子オリジナル作品」のようなのですが、とにかく頁数も短く、かつサンプリングをガンガンに効かせた小体な作品ゆえ、インパクト重視で希代のバカミス師・クラニーが演じるヘンテコ魔術をまた見て見たいという好事家には、時間と労力を節約しつつもタップリとその技巧を堪能できるのではないでしょうか。往年の(?)クラニーファンにこそ強くオススメしたい佳作といえるのではないでしょうか。