最近日本でも刊行された台湾ホラー。自分は2019年に手に入れていながらずっと積読のままだったので、今回の日本刊行をきっかけに読んでみた次第。『リング』+『哭声/コクソン』という話ながら、個人的には『リング』×ルチオ・フルチという感じでなかなか愉しめました。
物語はタクシー運転手のうだつのあがらない男が、ふとしたことで手に入れたカセットから日本語まじりの奇妙な声を聞く。それをきっかけに彼の妻もまたくだんの奇妙な声と幻覚に苛まれるようになり、怪我をしたあげく病院に担ぎ込まれるも精神異常の診断を受け精神科に入院することになる。「みなこに殺される」という言葉を遺して不可解な死体となった彼女を訝る主人公は「みなこ」の呪いを解くべく、呪い婆を頼って難登山を敢行するのだが――という話。
ルチオ・フルチっぽい登場人物が、タクシー運転手の妻と同室だった原住民娘と呪い婆のふたりの存在で、前者の繋がりから、医療ソーシャルワーカーの中年女性が原住民の因習の調査して「みなこ」の謎を解こうと立ち上がります。物語の中盤からは、主人公であるタクシー運転手の難登山と、医療ソーシャルワーカーである女性の視点と、さらに呪い婆がとある女性からの依頼で浮気相手の呪殺に加担する三つのシーンが平行して描かれていきます。
ビジュアル的な怖さでいえば、妻の死体が『エクソシスト』のリンダ・ブレアふうに首グルンになっていたり、案の定山で遭難した主人公が見るみなこの幻がこの首グルンで登場したりと、幽霊・怪物の様態はアジア的というより極めて欧米ホラー的。なぜ日本女性なのか、そしてなぜそれが原住民と絡んでくるのか、という謎にはかなりアクロバティックな繋がりが凝らされてい、このあたりでかなり評価が分かれるのではないかと推察されるものの、原住民ッ! 魔神仔ッ! さらには日治時代ッ! と欲張りなトルコライス風に全部盛りをブチ決めた作風は、メッチャ読者を愉しませてやろうというフルチ御大的な意気込みを感じさせます。「『サンゲリア』もいいけど、やっぱ『地獄の門』だよね」というコアなフルチ・マニアには好感度大。
登場人物が想起する「みなこ=魔神仔」というロジックに当初は疑問符だらけだったものの、遭難した主人公が幻覚に苛まれながら死肉や蟲を貪り喰うシーンをニヤニヤしながら見守っていると、男の救出劇が「声」を解して医療ソーシャルワーカーの女性のシーンとの重なりを見せる構成が秀逸です。
「声」の怪異に科学的な知見を交えた発想は『リング』を彷彿とさせ、本作を語るときに『リング』が引用されるのにも納得の仕上がり。原住民や道教のモチーフを活かしながらも、瀟湘神や何敬堯とはかなり趣の異なるモダンな作風は、怪異から醸し出される怖さよりも、ふとしたことがきっかけで社会から転落してしまう現実的な恐怖の方が遙かに優る本作は、社会派ホラーとしても愉しめる一冊といえるのではないでしょうか。