怪作にして傑作。
エロ漫画とミステリをこよなく愛するマニアの方からのいただきもので、「京極っぽい激推しな漫画がありまして――」というメッセージとともに送られてきた本作。リーマン仕事でバタバタしていて他の本と一緒に積読にしておいたら、そのあまりに刺激的なジャケを妻に見つかり、あとで厳しい叱責を受けたのはナイショです(苦笑)。
収録作は、リゾート地らしきとある島でひたすらメスイキを体験するエロ幻想に驚くべき真相が明かされる「D.R.Y.」、信州にある女神館で起こったコロシを巡り、激しい官能と変態めく推理が大展開する怪作長編「女神家の一族」の全二編。
頁数のほとんどは「女神家」に費やされていて、実際のところ本作の白眉はまさにコレ。作者の他の作品を読んでいないので定かではないものの、「女神家」の前に収録されている「D.R.Y」で執拗に描かれるメスイキが、続く「女神家」の異様な様態を作中の“日常”へと転化させ、それが見事な誤導へと昇華されているところに注目でしょうか。
当主の死を引き金に殺人が発生する、――という黄金時代のミステリでは定番の流れながら、「ただ美しい者だけが住む」というこの館で行われている淫蕩が完全に常軌を逸していて、メイド服の女装美少年に対する肛虐・口虐の描写が凄まじい。エロ漫画ゆえ官能描写がまずメインで、そこにミステリを薬味に添えている趣向とはいえ、あまりに延々と展開されるエロシーンそのものが後に大きな伏線として機能する構成は本格ミステリとしても一級品。
やがて犬神家リスペクトの逆立ち死体(性器モロ出し)で発見された死体を巡って、民俗学の調査にやってきた探偵が調査を始めると、死姦ならぬ“視”姦を目当てにノコノコやってきたある人物へのお仕置きから、館の住人たちを交えた大乱交へと展開していく構成はエロ漫画の必然ながら、ここにある特殊な属性の探偵が加わることで、極上のエロジックへと爆発する結構が素晴らしい。
探偵の特殊な属性ゆえの乱交過程での気づきから、前半の官能シーンでさりげなく描かれていたこの館の顛倒が明かされるとともに、事件の動機が明かされる見せ方には完全ノックアウト。とくに事件発生前からの「仕込み」は盤石で、このご時世だからこそのある特殊な状況が、犯行を引き起こすきっかけとなったという真相にはヤられました。
もちろん本作でもっとも驚くべきはこの館の因習に絡めたある顛倒で、これはまさに京極夏彦のある作品を彷彿とさせる一方、事件を発生せしめたこの「仕込み」は三津田信三の刀城言耶シリーズの某傑作のよう。事件が解決し、探偵がこの館を去るときに口にした「セックスすれば分かる」という言葉のあとに語られる犯人の心理も、ハードなエロ漫画からは想像できないほどの深い余韻を残しながらも、最後はやっぱり激アツな放尿シーンでキメた幕引きで脳レイプされる読後感もいうことなし。
ウブな本格ミステリ読者には完全に取り扱い注意以上に取り扱い禁止なブツながら、日々の営みに忙しいマニアには、本格ミステリとエロ漫画を同時に愉しめるという点でも貴重な一冊といえるのではないでしょうか。超オススメ。