ピークオイルについて色々と調べていくなかで知ることになった『2050年は江戸時代 衝撃のシミュレーション』の作者のSF小説。あらすじはというと、不動産屋を営む主人公たちの建物に、ある日突然亜空間が出現。彼らはこの広大な土地を使って一儲けを企むのだが――という話。
SFといっても頭でっかちなところはナッシングで、むしろ70年代の懐かしSFに近い雰囲気が個人的にはとてもイイ。半村良や式貴士を彷彿とさせる、極悪人どもが登場しない物語は語り口も軽妙で、主人公の男性もごくごくありきたりの普通人で、金儲けを考えながらも悪いことをして大金持ちになってやろうという気持ちは薄く、また彼を取り巻く周囲の人物たちもいいひとばかり。そんな市井の登場人物たちは、眼の前の亜空間の存在をあっさりと認めて、これを現行の法律でどう処理して金儲けに繋げていくのか――という本作の見所でしょう。
仲間に加わった老弁護士が相当の変わり者で、裁判で思いも寄らぬ攻め方により「負け」を「勝ち」とったかと思えば、この土地を使って商売をするために主人公たちが新興宗教を立ち上げる中盤からの展開も興味深い。彼らの手になる宗教が混沌へ突き進んでいくのかと心配するうち、宿敵となる政治家が現れる。しかしこの「法難」を乗り越えたあとはさらなるスケールへと話が進んでいくのかと期待させながらも、作者のめっぽう優しい筆致はそうした路線に転ぶことなく、思いのほか庶民的な終わり方で幕となる見せ方も素晴らしい。
『2050年は江戸時代 衝撃のシミュレーション』にも描かれた現代社会の問題点について核心を突いた問題提起を本作でもしていて、個人的にはかなり愉しめました。作者の手になる文明批評が登場人物たちの口から語られるところにややクドさも感じる読者もいるのではないかと危惧されるものの、ピークオイルや資源枯渇についてそれなりに見聞きしたことがある人であれば、作者の考えと主張にはかなり首肯できるのではないでしょうか。オススメです。