2050年は江戸時代 衝撃のシミュレーション / 石川英輔

個人的には、戦慄の書。ミステリやSFとは関係ない、資源枯渇関連を論じている界隈で目にした本作、堺屋太一『平成三十年』みたいな斜めに読むと完全にギャグでしかない一冊かと思って手にしたらさにあらず、かなり真面目な内容でビックリしました。

物語は、「大刷新」によって江戸時代のような様相へと大変化を遂げた近未来の日本が舞台。「大刷新」を知らない村の若者たちに、以前の様子を長老が話して聞かせる、――という構成で進んでいきます。

江戸時代のような、というのは要するにほとんどを自給自足でまかなう農村社会のようなもので、ガソリン車は一応動いてはいるものの、ガソリンの高騰でめったに動かすことはない。作中で語られる「大刷新」以前の時代は、高度経済成長期以降にあたり、まさにいま読者がいる「いま、ここ」であるためシミュレーションされる作中世界との比較がたやすいところも好印象。資源枯渇によって現在進行形で起きている様々な事柄に無関心な読者には、まったくのホラ話にしか見えないのでは、と危惧されるものの、作者の手になる痛烈な文明批評とともに描かれる「江戸時代」のような世界は存外にリアル。

一応、「大刷新」が起きた背景は、石油枯渇というよりは、明治維新と先の大戦からこっちのイケイケドンドン的な経済成長の背景にある、日本社会特有の硬直化と行き詰まりが原因のように語られているのですが、シンガポールと思しきアジアの一国が日本の会社を手本としながらやがて日本と同様に衰退の道を辿っていくカモよ、――という予言めく逸話がさらっと添えてあるあたりから察するに、やはり作者の思想の背景には成長一辺倒の現代社会に対する文明批判があるのでしょう。

作中で仄めかされる「大刷新」については、革命や災厄のように突然やってきたものではなく、じわりじわりと社会が衰退していったというふうに、ハッキリとは描かれていないところが逆にリアルで恐ろしい。2022年の「いま、ここ」がまさにその大刷新のとば口を過ぎたあたりである自覚も薄く、現在進行形の社会や世界情勢をボンヤリ眺めているぶんにはまったくピンとこない物語ながら、個人的にはかなりゾーッとなりました。

作中には極悪人がまったく出てこないところが面白く、このあと作者の作品を何冊か読んでみたのですが、いまのところ悪人らしい悪人がまったく姿を見せない物語ばかりで、どうやらこのほのぼのとしたところが作者の風格の様子。ちょっと式貴士っぽいなァ、と感じて懐かしい気持ちになりました。

正直物語らしい物語が進んでいくわけではなく、あくまで作者の文明批評をとっこに現代社会の行く末をシミュレーションしたものゆえ、大きな起承転結はないものの、資源枯渇について興味がある人であればかなり愉しめるのではないでしょうか。オススメです。