前作『方舟』に比較するとこじんまりとした印象の本作、『方舟』も個人的にはあまり好みではない物語だったので、こちらはどうかなァ……と危惧していたものの、やはりあまり自分好みではない作品でちょっとアレ(爆)。
物語は、叔父が所有していた島を訪れた登場人物たちが殺人事件に巻き込まれ、ひとり、また一人と殺されていく。だが、犯人は残りの連中に犯人捜しはしちゃダメよ、という戒律を下し、破ったら爆弾を爆破させるからヨロシク、とキツいことを言ってくる。果たして、彼らは無事、この島を出て生還するすることはできるのか、――という話。
犯人捜しはしちゃダメよ、と言われても本格ミステリですから、登場人物たちも第一の殺人の時点で、いったい誰が犯人なんだと皆がみなスケベ心を起こしてテンヤワンヤになるかとワクワクして読み進めるも、実際に犯人の課してきたルールを積極的に破ろうとする者はたった一人というていたらく。もっとも綱渡り的な感じでその人物は事件の真相を暴いてやろうとギリギリのところで探偵行為を行っているようなのですが、さりげなく語り手を巻き込んでいるところが本作の仕掛けのひとつといえるでしょうか。
このあたりの語り手の視点から事件が描かれていく”ずるさ”が本作のキモではあるものの、しかし、いったい犯人の言う事に素直に従い、あげくは犯人におうかがいを立てるため「こっくりさん」めいたお遊びまでしてみせるという、登場人物たちのナイーヴさがじれったい(もっともこれ、お上からの命令には素直に従う日本人が登場人物だから成立する物語でもあるような……中国人とか台湾人ばかりだったら、こうはいかないのでは)。
このあたりのナイーヴな登場人物の造形は『方舟』でも見られたものですが、本作においては「とりあえず犯人の言う事聞いてりゃ、爆弾も爆発しないんだろ?」という設定ゆえ、『方舟』のように、このまま大人しくしてたら確実に死ぬ、という緊迫感はナッシング。本格ミステリとしてギリギリ成立するかどうかのぬるさを孕みながら、三人が死んだところで、探偵行為をこそこそ行っていた人物の謎解きが始まるのですが、殺人の様態にあった、たった一つの違和感からするするッと犯人を指摘していくイージーさで、このまま終わるはずがないよなァ、そもそもコイツが××だし、――と思って見守っていると案の定、真相が喝破されたと思われたその矢先に、どんでん返しが待っていました。
とはいえ『方舟』と違って絶望的な幕引きというわけでもなく、語り手のずるさもあって、読後感はごくフツー。島に集まった登場人物が順番に殺されていく、――という展開から、クリスティのオマージュでまだまだ死人が出るかと思わせておいて、存外にコンパクトにまとめた構成には好感が持てるものの、『方舟』のどんでん返しに比較すると物足りない。
『方舟』以上の衝撃を求める向きには取り扱い注意ではあるものの、孤島ものの佳作というくらいの心構えで手に取れば、満足できる読書体験ができる一冊ではないでしょうか。