確か積読箱のどれかに『蟻の階段 警視庁捜査一課十一係』がある筈なんですが、見つからず。結局、こちらの方を先に読んでしまいました。シリーズ第一作となる『石の繭』ではヒロインである塔子タンと犯人との微笑ましいテレフォン・プレイという微エロを添えた作風で見せてくれたわけですが、本作はいたって真面目。犯人との対決というよりは、併走する事件の繋がりと終盤のサスペンスに注力した結構で、堪能しました。
物語をざっくりまとめると、部屋ン中を真っ赤に染めてコロシを行う連続殺人が発生、一方都内の各所では不可解な爆破事件が相次いでいる。果たして二つの事件に繋がりはあるのか否か、――という話。
今回は、十一係のほか、連続爆破事件というテロもあって、公安が捜査に絡んでくるとこがミソ。警察小説の定番ではありますが、連続殺人犯を追う十一係と、爆破事件の背後に見え隠れするテロ組織を捜査している公安との確執が描かれていきます。連続殺人事件に関しては、犯行現場をスプレー缶で真っ赤にしていたりといった犯人の不可解な行動のホワイダニットが主軸となるわけですが、十一係の見立てがこれすべて犯行の隠蔽と推測しているところにやや甘さが見られるものの、要所要所に挿入されている犯人の視点のシーンで描かれるかの人物の違和感アリの振る舞いが最後にホワイの回答と重なるところは秀逸です。
真相の開示は、十一係の謎解きというよりは、犯人の独白によって最後にアッサリと語られる比重が高く、ロジカルな謎解きを期待している本格読みの方にはやや不満が残るカモと推察されるとはいえ、犯人の視点からこの事件に手を染めるにいたった過去が語られる構成によって、犯人の悲壮を際立たせるという見せ方は『真夜中のタランテラ』にも見られた作者の十八番、無闇に本格ミステリ的構成にこだわらず、公安との確執も添えて警察小説の王道を行く方が、本シリーズには相応しいような気もするゆえ、個人的にこの趣向は大いにアリ。
で、我らが塔子タンの活躍ぶりですが、『石の繭』では堂に入ったテレフォン・プレイで犯人との駆け引きならぬ犯人のペースにスッカリ乗せられてしまっていた彼女が、最後の爆破事件を阻止するために思わぬ機転を利かせるなど、作者である麻見氏がおそらく緻密な取材で得たであろう知見の活かされた見せ場もシッカリと用意されてい、エンタメ小説としてもなかなかの仕上がりを見せています。
ちなみに本作には、「身長百五十二・八センチ」とかなり小柄な塔子タンが図書館で書架の高いところにある本を手に取ることができず、「――と、届かない……」と呟いてみせたり、電車の中吊り広告に目をして「――私もほしいよ、カネと人脈」とボヤいてみせたりといった、読者サービスにも配慮した萌えポイントもアリ(爆)。
ここのインタビュー記事によれば、塔子タンに「特定のモデルはいません」とのことですが、予備犯人の刑事が彼女を見て、「あんた、あれににてるな。保険会社のコマーシャルに出てる、ほら、何ていったっけ」というシーンがあったところから、後半は勝手に彼女の顔を宮崎あおいに脳内変換して読んでました(ただ、wikipediaによると宮崎あおいの身長は163cmなので、塔子タンのような小柄な女性ではありません)。
『石の繭』以上にサスペンス溢れる警察小説としての風格を前面に押し出した佳作で、スケールも大きくなってきた本シリーズ、次作も期待して待ちたいと思います。