久しぶりに都会へ行く用事があったので、昨日は東京都写真美術館で開催されていた『川内倫子展 照度 あめつち 影を見る』 を駆け足ながら観てきました。今回の展示では「《Illuminance(イルミナンス)≫と最新作≪あめつち≫≪影を見る≫からなる展示構成によって、川内倫子の作品世界の魅力と本質、そして新たな展開にせま」るものである、とのこと。
展示の構成としては、入るといきなり奥行きのある縦長の空間に《Illuminance(イルミナンス)≫の写真が左右に並べられているところにチと吃驚。人は少なく、向こうの方に黒いカーテンの仕切りがあり、その奥から何やらゴトゴト音がしている。実はこの仕切りの向こうが大きめの空間になっていて、二つのビデオ映像が左右に並べられるかたちで同時に流されているのですが、これが素晴らしい。実際、観客のほとんどはこのビデオの部屋に釘付けで、展示の中では一番人が多かったです。左右に同時進行で流れているビデオに関連した意味はなく、……というか、ここで関係という「意味」を求めてしまうのは本読みの性ながら、こうした姿勢は写真鑑賞の邪魔になることがほとんどなので、今回はぐっと堪えて、写真を撮る側と同様、頭をカラッポにして挑みました。
動画とはいえ、動体の『動き』を撮影したものというよりは、静物として写真になるべきだったものの「揺らぎ」や「移ろい」を光とともに捉えてみせたもので、このあたりは動画というよりはやはり写真の延長線上にあることは明らかで、この二つをぼんやりと……時には両眼を忙しく動かしながら左右の映像を追いかけているときの至福は、写真集ではなく、こうした展示ならではの愉しみといえるのではないでしょうか。
この部屋の展示も素晴らしかったのですが、これ以上に個人的にツボだったのが、≪あめつち≫≪影を見る≫のビデオ。あちらが映画館めいた暗い部屋に二つのビデオを左右に並べていたのに対し、≪あめつち≫≪影を見る≫は、天井の高さが感じられる広い空間の壁一面に、二つのビデオを向かい合わせるかたちで流しており、これが圧巻。≪影を見る≫の、海面すれすれに行き来する鳥の群れの静けさと、≪あめつち≫の炎が醸し出す静かな擾乱に満たされた空間演出は最高で、ほとんどは人は前半の暗室ビデオにかなりの時間を費やしてしまうかと推察されるものの、こちらも負けず劣らず素晴らしいものなので、自分のように急いでいる人は時間配分をしっかりと考えて鑑賞に挑んだ方が吉、でしょう。
そのほかにもサムネイルのように正方形を並べた展示は、コンタクトプリントを覗き見るような快感があり、川内式写真術の深奥を垣間見ることができたような気がします。ただ、あまりに二つのビデオ展示が秀逸だったため、実をいうと、静止画としての『写真』をタップリ観たという感慨が薄く(爆)、どちらかというと、現代美術のインスタレーションを愉しんだ後の感覚に近いというか。川内倫子の写真はもちろん写真集では見ているのですが、展示会は初めてだったため、今回の展示が今までのものとどう違うのかについて語ることはできないのですが、非常に愉しめました。七月十六日までやっているので、時間をつくって、もう一度見に行きたいと思っています。これは断然オススメ、でしょう。