竹島 / 門井 慶喜

ジャケ帯に曰く、「歴史サスペンス&コン・ゲーム小説!」とある通り、頭の回転だけは早く舌先三寸で生きてるダメ男のカイジが、日本国の役人や政治家、さらには韓国の役人を相手にトンデモない大博打を打って出るのだが、その結末やいかに、――という話。

こうした韓国ネタをテーマにしたサスペンス小説といえば、ふとこの作品の悪夢が脳裏を過ぎり、大きな不安にかられてしまうわけですが、ご心配なく。ヒョンなことから、竹島の領有が日本韓国のいずれかに属しているのかを示した決定的な古文書をカイジ君が手に入れて、――という冒頭の展開も漫画的なら、韓国を巻き込んだ挙げ句に、その古文書の所有を決めるためのある方法というのも笑ってしまうほどのトンデモなさ。

大阪弁をしゃべくる主人公の軽さもあって、所々に歴史や政治のシリアスな知見が盛り込まれていはいるものの、あの作品のように妙にかっこつけたところがないのが好印象で、どう考えたって強引に過ぎる展開ながら、するすると読めてしまいます。

作中で語られる『領土とは言葉だ』、『外交いうのは、要するにサッカーとおなじやねんな。相手とまっすぐ向き合うて、相手のまもりを突破して、点を取った方が勝ち。取られれば負け。それ以外の抜け道はない』という台詞通りに、言葉だけを武器にサッカーの試合のごとく、とっさの判断のみでその場の窮地を切り抜けていく主人公の姿は微笑ましく、門井小説ならではの知的な軽さとはまた違った、大阪弁に導かれた漫画的な軽さというか、……そのあたりは『美術探偵・神永美有』シリーズや、現代本格の傑作『人形の部屋』などで氏のファンとなった本読みが戸惑うところではあるのですが、日本と韓国を相手にしていたこのゲームにもう一つのチームが加わる後半の妙な盛り上がりなど、怜悧で知的な門井ワールドとはやや異なる風格で、これはこれで面白かったです。

ただやはり韓国ネタなのだから、もう少しかの国の、想像の斜め上をいく展開を期待していた自分としてはやや物足りなかったというか(爆)。ダメミスというには、あの作品と比較するのもおこがましいほどに軽妙なコン・ゲームとしての完成度は高いし、かといって本格よりの小説としては仕掛けは薄い、というわけで、自分のような嗜好の本読みよりは、むしろ門井ワールドを知らない方の方がそうした先入観なく愉しめるような気がします。