ソニーの電子書籍リーダーPRS-T2で第9回ミステリーズ!新人賞受賞作「かんがえるひとになりかけ」を読む

買おうかどうしようかとしばらく悩んでいたソニーの電子書籍リーダーPRS-T2を手に入れたので、簡単ながら使い心地をまとめておきます。後半は、とりあえずこの端末で読了した第9回ミステリーズ!新人賞受賞作である「かんがえるひとになりかけ」についての感想も少しだけ。

しばらく前にミスター三木谷がエグい売り方をして非難囂々となった香ばしい電子書籍端末(長い)koboのレビューしたかと思うのですが、E Ink端末としては、アマゾンのkindleを二台、koboに続いて、このPRS-T2は四台目となります。ソニーリーダーは注目してはいたものの、この前世代のやつがwifi対応ではなく、PCからダウンロードしなければいけないという、今ドキのデジモンとしては許しがたい仕様であったことを理由にスルー、PRS-T2がリリースされたあともしばらくは様子見をしておりました。実際、kindleの日本語版が近々出るという話もありましたし。

で、つい最近までKindle Paperwhiteを購入する気マンマンで予約まで入れていたのですが、こういう暴挙に出たことに嫌気がさして、あっさりとReaders StoreとPRS-T2に鞍替えした次第です。

で、昨日から今日にかけてざっと使ってみた感想なのですが、すごくいいです。koboと同様、こちらも画面をタッチしてページ送りをするのが基本的操作ではあるものの、下に物理ボタンがついて、どちらを使っても良しという親切設計もマル。そして自分のような老眼中年にとって嬉しいのは、本を読んでいる最中でも自在に文字の大きさを切り替えることができるという点で、koboでは本ごと、あるいはページごとにそうした操作はできず、メインの設定から行う必要がありました。しかし、たとえばFirefoxをはじめとするブラウザでサイトを見ているときなど、その場でさっと文字を拡大したり縮小したりしているわけで、こうした読み方に慣れていると、光の具合、あるいは自分の目の疲労度によっては気軽に文字の拡大をしたくなるものです。PRS-T2はそうした当たり前のことがしっかりとできているところが素晴らしい。

そして画面をタッチしてのページ送りですが、これがまた快適。というかはっきり言ってしまえば、koboがダメ過ぎたといってもいい(爆)。遅いのか、自分のタッチが悪いのか判断に苦しむほどの鈍い動きで、快適であるべき読書タイムをストレスフルなものにしてくれたkoboに比較すると、さっと軽く指先でなぞるだけでページ送りができるという、これまた当たり前のことを当たり前にこなしています。

SONY NEX-7 + CONTAX Makro-Planar 2.8/60C

自分が持っているkindleは物理キーでのページ送りしかできないので、この点の比較はできないものの、物理キーの方の押し心地はkindleに比べるとやや固めでしょうか。kindleと同様、別端末との同期もできるので、この点についての印象を述べるとすると、――うーん……何か同期がうまくいっていないような気がします(爆)。ちなみに自分は、kindleではkindle端末と携帯(XPERIA S)を同期させ、ソニーリーダーの方は、PRS-T2とXPERIA Tabletを同期させています。普通はPRS-T2で読むことになるかと思うのですが、試しに先ほどXPERIA Tabletでページを開いたまま、PRS-T2で同期させてみたのですが、少しばかり時間をかけた同期処理のあと(30秒くらい)、出てきたページは先ほどと同じという結果でした(苦笑)。まあ、このあたりはもう少し使い方を探っていこうと思っています。

ちなみにXPERIA Tabletとの比較ですが、読みやすさという点では、電子ペーパー派の自分としては、やはりPRS-T2の圧勝でしょうか。ノングレアとXPERIA Tabletの艶艶した画面では、そもそもまったく印象も異なるわけですが、使い勝手という点では、Androidのリーダーアプリも普通によくできています。ただ直感的な操作ができずに最初のうちはやや戸惑いました。ページの真ん中をタップすると、文字の大きさや画面の明るさを設定できるというのですが、どうにもタブレットを横にしている時は、二ページをまたがる中心線が表示されているから良いものの、自分のように縦にして読んでいると、その中心をうまくとらえることができず、ページを行きつ戻りつしながらようやくメニューを表示させる中心を見つけることができたという体たらく。雑誌などはPRS-T2では読めないものも多いので、要はコンテンツによって使い分けるということになるのでしょう。小説であれば、自分の場合は、PRS-T2一択になると思います。

koboでひどい目にあったから電子書籍端末はもう懲り懲りという方にもオススメできるかと思います。もっともBookLive!Reader Lideoなど、これからも魅力的な端末が続々とリリースされるようだし、自分のようなミステリ読みとしては、新刊のほとんどが電子書籍で読めないという現状においては、もう少し様子見というのもアリなのかもしれません。

で、とりあえず買ってみたのが、第9回ミステリーズ!新人賞受賞作となる近田鳶迩「かんがえるひとになりかけ」。短編なので、お値段は210円。案外、音楽で言うシングルを買うような感覚で短編を電子書籍で購入するというような読み方も悪くないな、と思いました。内容はというと、やたらと落ち着いた口調で話す男が語り手で、彼はどうやらある女性に殺害された後、胎児となって生まれ変わるべく、いまは女の腹の中にいるらしい、――といきなり不条理小説めいた始まり方で度肝を抜いてくれるのですが、べつだんこの奇妙な状況に現実的な解が与えられるわけではありません。

腹の中にいる男が過去を回想しながら、自分が巻き込まれた事件を思い返していくというもので、過去と現在が平行して語られていきます。あだ名で呼び合う四人の過去にやや違和感を覚えつつも、男の落ち着き払った、おおよそ今フウとは言えない語り口にするすると読み進めていくと、最後の最後で語り手が変わり、事件の外に隠された意想外な真相が明かされます。

犯行状況において、語り手が疑っている人物が犯人とすれば、おおよそふさわしくない死体の処置の謎が、イヤミス風味を横溢させた幕引きによって見事な重なりを見せる結構は短編であることを最大限に活かした仕掛けでもあり、さらには語り手が胎児で外界を正常に認識できない状況であるからこその錯誤を凝らした趣向も素晴らしい。事件の真相はもちろんですが、やはり本作のキモは、最後の一撃ともいえるイヤミス的幕引きにアリ、と思うのですが、いかがでしょう。短編ならではの技巧を凝らした作者が、長編ではどんなものを見せてくれるのか、次作が非常に楽しみでもあります。

Readers Storeを検索してみると、意外と東京創元社は健闘していて、『体育館の殺人』もしっかりと電子書籍としてあがっており、ミステリ読みとしては嬉しい限りなのですが、それでも新刊本は絶対数が少ない、というか少なすぎます。新人賞受賞作などはまず問答無用に電子書籍版も同時刊行をデフォルトにしていただき、絶版本もまた並行してジャンジャン電子書化していってもらいたいものです。自分のような老眼中年にとっては、文字の大きさを変えられない紙本よりも、電子書籍に利があるのは明らかで、電子書籍端末は新しもの好きのナウなヤングだけのものではない、これから歳を重ねていく世代の人間にとっては、”切実”なものであるということを出版社の方々にもっと理解してもらえればなア、と願ってやみません。