デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス@ラフォーレミュージアム原宿

昨日はリーマン仕事が早く引けたので、ラフォーレミュージアムで今月十日から開催されている『デヴィッド・リンチ展~暴力と静寂に棲むカオス』を見ることができたので簡単ながら感想を。

リンチといえば映画の印象が強いわけですが、今回の展覧会は、写真をはじめ、ドローイングが中心というところが珍しい。まず会場に入っておっと思ったのが照明で、黒い幕で仕切られたスペースに並べられた作品を天井から暖色系のライトが明るく照らしており、これによってモノクロ作品でも全体がぼんやりとセピア色に映し出されるという効果が生まれています。まず入って最初の展示は写真だったのですが、モノクロ、――とはいえ、先に述べた通りの照明の効果も相まって、正直眼の悪い自分にはモノクロなのかセピア色に現像したものなのかはよく判りませんでした(苦笑)。

被写体は廃墟めいた建物のクローズアップやオブジェ、さらには雪だるまなどで、前者の方はまあ、今回の展覧会の副題にもある通り「暴力と静寂」という言葉を端的にイメージできるものだったわけですが、面白かったのが雪だるま。どうも構図が奇妙にねじれていて、雪だるまという対象そのものが醸し出すほのぼのとした印象は皆無。現像は全体的に暗く、重いもので、セピア色を重ねた黒が際立つフレームの中にくっきりと浮かび上がる雪だるまを見ていると、妙に落ち着かない心地になるあたりは、なるほど、リンチだな、と納得した次第です。

会場のところどころに映像エリアが設けられてい、特に会場中央の大スクリーンではすべての作品が連続上映されています。結構なボリュームなので、会場にはやかましい電話の音をはじめとする無機質な機械音が響き、これがまたどうにも落ち着かない。だが、それがいい、というのはリンチ展ならでは(爆)。ちなみに上映されている映像作品十一作のリストはこんなかんじ。

  • 16MM Experiment
  • Mystery of the Seeing Hand and Golden Sphere
  • 3R’s
  • Grazy Crown Time
  • Out Yonder – Children
  • Our Yonder – Teeth
  • Rabbits – Episode 1
  • Rabbits – Episode 2
  • Rabbits – Jack
  • Rabbits – Suzie
  • Memory Film

写真エリアを過ぎるとモノクロ系のドローイングが並ぶのですが、こちらはちらっとユーモアが入った展示が並びます。ネズ公とロケットとかモチーフとしては子供っぽい絵なのに、やはりモノクロというよりセピアっぽい配色と、ところどころに飛び散った絵の具の飛沫などが加わることで、ほのぼのできない不安なイメージが喚起されるというリンチ風味を堪能できます。

で、今回のメインともいえるドでかい絵画が並ぶ奥の広いスペースの展示は圧巻の一言。”BOB’S SECOND DREAM”をはじめとする、段ボールに絵の具をゴシゴシと塗りたくり、その上にオブジェを配置した大作品の数々は近くで凝視するよりも、やや離れたところから全体を眺めた方が愉しめるかもしれません。

個人的にはこうした大作品の前の、やや狭い通路に展示されていた”FIGURE #4,3,2″や”SEE MY LOVE”、”DOG BITE 201,202″などのドローイングが印象に残りました。厚く塗られた絵の具とオブジェを混ぜ合わせたモチーフと溶解していくその表情は、ちょっとフランシス・ベーコンっぽくてよかったです。

平日の中途半端な時間ということもあって、結構すいていたのですが、見に来ていたひとのほぼ全員がエッジな若者で、自分のような中年男性は皆無でした(苦笑)。しかし最近の若者は我々中年リーマン以上に疲れているのか、会場中央の映像エリアの椅子に座って船をこいでいる若い娘っ子もちらほら。凄みのある大作品だけでも一見の価値ありですが、特にリンチの映像作品に興味のある方であれば、十一作品を一気に、それも結構な大きさのスクリーンで見ることができるのでオススメです。なお、展覧会は十二月二日(日)まで。