石塚桜子展「Berlin」@ギャラリーアートもりもと

友人である石塚桜子さんの個展が現在、二カ所で開催されています。ひとつは来月の九日に御大とのトークイベントも予定されている佐藤美術館での「マイルーツ」で、もうひとつは銀座にあるギャラリーアートもりもとでの「Berlin」。今日は「Berlin」展の方に行ってきたので簡単ながら感想を。

ミステリファンであれば御大の『透明人間の納屋』の表紙画・挿絵の作風をイメージされるかと思うのですが、「マイルーツ」の方はあの作風の大作をズラリと揃えたものとなり、一方の「Berlin」はというと、すっきりとした空間に、彼女がベルリン滞在時に霊感を得て取り組んだ風景画が展示されています。「Berlin」には、彼女の作風からイメージされる鮮烈な赤や、黒いひとといったモチーフは登場しないのですが、それでも筆遣いや個性的な色彩感覚は風景画であってもやはり強烈な印象を残します。

「マイルーツ」の紹介文にある『表面をニスで固めた「てかり」』は、彼女曰く”秘密兵器”と呼ばれる技法によって描かれたもので、今回の「Berlin」でもいくつかの画にはこの技法が使われていて、古い刷毛によって描かれた荒々しいラインやクラッチなど、『透明人間の納屋』で彼女の画に接した自分のような絵のド素人でも一見して彼女の画だと判る個性は、今回の展示を占める風景画にももちろん健在。もっとも今回の展示で、個人的に興味深く見たのは、ベルリンから帰国後、今年にかけて積極的に採用してきたという蛍光色の作品の数々でした。

彼女の作品でまずイメージされるのは、鮮烈な赤や深紅、暗い緑や漆黒など、どちらかというと深みとコクのある色彩かと思うのですが、原色を塗り重ねることで、作品のモチーフから画全体にいたるまでを『人間が原初より持ち脈々と受け継がれる不条理や感情、精神の本質』という人間の心の複雑な深淵を見事に描き出していた従来の作風に比較すると、この蛍光色のシリーズは非常にフラットな印象があります。

中でも一番印象的だったのが、ショッキングピンクと青、そして桜子カラーとでもいうべき黒がせめぎ合う「シュプレー川」でしょうか。「マイルーツ」の方で展示されているであろう「スフィンクス」や「アレキサンダープラッツ」ほどフラットに簡素化された描き方ではなく、クラッチや刷毛の一本一本が描き出す線の荒々しさ、さらには飛沫の描き方に見られる混沌とした色合いが、鮮やかな蛍光色とともに同じ構図の中でせめぎ合うさまは、ベルリン以前の彼女の作品には感じられなかった風格ではないでしょうか。蛍光色の技法を「やり尽くした」という彼女は、現在、再び画風を変化させつつあるのですが、おそらくそうした現在進行形の作品は「マイルーツ」の方で見ることができると思います。

ちなみに「Berlin」展の方は来月の一日まで。詳細は、ギャラリーのサイトの方に詳しい情報がありますので、そちらを参照のこと。