リライト / 法条 遥

リライト / 法条 遥ジャケ帯に曰く『SF史上最悪のパラドックス その完璧にして無慈悲な収束』。タイムトラベルもので青春ものとあれば、『時をかける少女』はもちろん、高畑京一郎の『タイム・リープ』など、傑作モンはいくらで思い浮かべることができるのですが、こちらは「最悪」に「無慈悲」と何やら不穏な言葉がズラリズラリと並んでいるところが新機軸。実際、この黒さはSFというよりはイヤミスに通じる邪悪さで、タイムトラベルものでこのイヤっぽさが似ているものといえば、乾くるみの『リピート』あたりかなァ、……といえば何となーく本作の邪悪さをイメージしてもらえるでしょうか。

中学二年生の娘っ子が”一応”主人公で、未来からやってきたというボーイを好きになって、……と、これだけであれば青春ものにタイムトラベルの趣向をプラスした盤石さで傑作となるのはもう決まったようなものなのですが、ここに十年後の大人の世界をプラスしたところが本作のミソで、この過去と現在のシーンへさらに記憶とフィクションたる小説を重ねてみればアラ不思議、彼と過ごしたひと夏の思い出という年頃娘の淡い恋心が邪悪な思惑へと姿を変え、ボーイもガールも救われないという”無慈悲”にして”史上最悪”の奈落に落とされるという怪作へ見事な変貌を遂げてしまいます。

確かにタイムトラベルというテーマそのものはSF的であるわけですが、タイムパラドックスを回避するための執拗な拘りがもたらしたある行為と辻褄合わせが生み出す状況は多分に本格ミステリ的で、実際、この仕掛けは鮎川ミステリか何かであるブツを使ったトリックとして見かけたような、――という既視感を覚えてしまう後半の謎解きシーンは本作最大の見所でしょう。

もっともやや駆け足で語られるこの真相にいたるまでの伏線も周到で、作中作めいた小説として描かれる十年前のシーンの青臭さの中にときおり垣間見える邪悪な意思と違和感、さらには小説というフィクションであるがゆえの人称と書き手の揺らぎから立ち上る不安定な感覚も素晴らしく、ここから生み出される混乱が最後のトリックによって説明される力業には脱帽です。

現代本格にも通じる操りといえばその通りなのですが、それにしてはあまりにも執拗なそのやり口は完全に常軌を逸しており、この周到さを狙った行為が、ある邪悪な意思によって完全に徒労へと終わる無慈悲な幕引きも真っ黒なら、ラベンダーという小ネタまで添えて、ガール・ミーツ・ボーイの青春胸キュン物語であればこそ納得しえる”自分だけの”ひと夏の恋というイメージを悪用した反転劇は『時をかける少女』のファンであれば完全に噴飯もの。

しかし乾くるみタンの『リピート』最高ッ!なんていう黒い物語をご所望の好事家であれば傑作認定しかねないほどの邪悪さを極めたおそるべき一冊ともいえるわけで、SF読みの人よりは、そうした邪悪さにすっかり耐性のついているイヤミスマニアの方にこそオススメしたい怪作といえるでしょう。完全に取扱注意ながら、真っ黒な話が大スキという変態君は必読、ということで。