日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで@横須賀美術館

日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで@横須賀美術館すでに先々週の話になってしまうのですが、現在横須賀美術館で開催されている『日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで』を観てきたので、簡単ながら感想を。

現在『「妖怪」展 3館連携キャンペーン』と題して横須賀美術館のほか、三井記念美術館で開催されている『大妖怪展』、そごう美術館の『幽霊・妖怪大全集』では相互割引が行われていて、これを制覇してやろうという今回の目論見。実はすでに三井記念美術館の方も観覧済みだったりするのですが、こちらの方はまた後日、――ということで横須賀美術館の展示ですが、大変面白かったです。

こちらは北斎、国芳といった有名どころをキッチリとおさえつつ現代アートを網羅しているところが秀逸で、今回の展示では一見すると縁遠いイメージのある奇怪な現代アートの作品群を北斎・国芳と連結してみせた学芸員の技芸に注目でしょう。昔モンと現代アートの結節点の役割を果たしているのが、どこか現代のゆるキャラ漫画にも通じる画風の芋銭と水木しげるの作品で、中でも水木しげるの妖怪画はたっぷり一部屋を設けてあり老若男女が楽しめる趣向となっていました。自分はほぼ開館直後に入ったのですが、日曜日とはいえ入り口はすでにかなりの混み具合で、そのさらに奥にある水木しげるの妖怪画もこの入り口と並ぶ人気のようでした。カラー画もたっぷりあったのですが、個人的には「幽霊毛虫」のような細やかペン使いが光る画をじっくりと眺めることができたのがヨカッタです。

で、今回の展示ではやや異色ともいえる『妖怪はここにいる 現代アートにみる妖怪像』は、一番奥まった場所にあり、まずは壁一面にずらーっと並べられた鎌田紀子の『ふすまのとって』が圧巻。ふすまのとってのひとつひとつにこれだけの絵を描ききったその根気にまず感心してしまうのですが、ふすまのとってにも多くの種類があったということにも吃驚です。『ふすまのとって』をはじめ鎌田紀子の描くキャラはユーモラスでありながら悲哀を感じさせる異形たちなのですが、一番最後に展示されている人形はかなり不気味。とくに人肌とはまた異なる独特の透かしを素材で表現して見せた技法が印象的でした。

インパクトという点では今通子の作風が強烈。『魚や野菜、果物などの食材を用いてオブジェを制作し、それを撮影した非日常的なモノクロ写真』は、アルチンボルド・ミーツ・ジョエル=ピーター・ウィトキンといったかんじで、ウィトキンを偏愛する自分のモロ好み。中でも『烏賊+ネギ+少女』の狂気は半端なく、顔のつくりは楳図かずおの「ねがい」に出てくるアレを彷彿とさせる造形でかなり怖い。

現代という寓話における妖怪、――という本展におけるテーマに沿った作風としては、池田達雄のペン画がいい。単体で見ればおそらく妖怪のイメージを持つことはないかと思えるのですが、水木しげるを一渡り観たあとだと、「禽獣記」シリーズに描かれるモノたちなどには水木しげるの作品世界にも通じる何かが感じられるから不思議です。

幽霊画にも通じる怖さという点では、漆原英子の『The Sybarite――快楽を求める人――』と、中村宏の『遠足』がピカ一。特に『遠足』は、セーラー服マニアや黒パンストフェチでもどん引きしてしまうほどの不気味さで、悪夢的な印象を残します。

あと幽霊画のなかには我らが松井冬子女王の『夜盲症』と『鳥眼』が展示されているのでこちらもお見逃しなく。全体的には昔の妖怪画を愉しむのがメインの展覧会ではありましたが、個人的にはやはり後半にズラリと並べられた現代アートが一番愉しめたような気がします。『「妖怪」展 3館連携キャンペーン』の中では東京の三井、横浜のそごうに比較すると、横須賀とやや不便なところにあるものの、水木しげるの画は三井記念美術館でも観ることができるものの、横須賀の現代アートは一見の価値アリだと思います。オススメでしょう。