『キョウダイ』が第三回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作となった作者の二作目となる本作は、本格ミステリというよりはホラーとSF風味が濃厚なまさに怪作。異世界か近未来か物語の舞台が判然としないまま進められる展開と、駆け足で語られる世界の真相のコンボは、M・ナイト・シャマランも苦笑いするしかないという破天荒ぶりで、堪能しました。
物語は、塀に囲まれ外界から隔絶されたセカンドタウンなる街が存在する世界で、教師がLSDでバットトリップしたとしか思えない悪夢的体験をするところがから始まります。『自治体』だの『外界』だの括弧付きで仄めかされるこの世界の仕組みに、名ばかりの名探偵、さらには失踪した友人が残していった奇妙な小説、――といった具合に、下手をすると文芸社から刊行された厨二病小説かと見まがう作風と趣向ながら、そこは『キョウダイ』の作者。最後には駆け足で語られながらも腑に落ちる推理によってこの世界の真相が語られる大技と、唐突な幕引きを迎える豪腕ぶりにはもう呆れるしかありません。
セカンドタウンの真相に関しては、中盤でこの世界の時代背景がこれまた濃厚な厨二病風味でポツポツと明かされていくゆえ、大きな驚きはありません。この世界の秘密こそが本作における本丸の謎かと油断していると、序盤で語られていた奇妙な幻覚体験とある施設の謎が力業によって連関を見せるところや、本筋とは乖離を見せながらも読ませてしまう逸話が最後にはねじれた形で幻覚に登場した怪物の姿を明らかにしてみせる構成など、子供が思いついたままに書き連ねたとしか思えない破格の展開が整然とした姿形を見せる終盤の収束ぶりのうまさは奇跡的。
繰り返しになりますが、本丸の探偵によって饒舌に語られるこの世界の陰謀と秘密に関しては、駆け足どころか猛ダッシュでダーッと明かされていくゆえ、このあたりはやや残念ながら、物語全体を俯瞰すればむしろこの破綻スレスレの風呂敷を畳むにはこうしたイッキ語りしかなかったとも推察できます。
かといって普通の小説であれば欠点にも見られる部分が、物語の孕むあまりの異常さと嘘くささゆえに必然にしか見えないという転倒と破格さは大いに評価したいところでありまして、ホラーとも本格ミステリとも異なる、何か異様な迫力を持った厨二病小説の怪作ながら、ぎりぎりの綱渡りで小説として成立させているバランス感覚はやはり生半可な技巧でなしえるものではないでしょう。
一見すると『キョウダイ』よりも破綻は大きく、小説としてのノリも異様ながら、その脅迫的ともいえる迫力は前作を遙かに凌ぎます。ホラーなのか本格ミステリなのかと考える以前に、本作の場合、まず異世界本格の定石を利用した悪ふざけなのかを判断するべきであり、果たして作者は大真面目に本作をものしたのか、それともある種の狂気に駆られて一気呵成に書き上げものにすぎないのか、――作者の才能と狂気がホンモノであるのかどうかを見極めるためにも次作を期して待ちたいと思います。