江口敬写真展「そのときの光」@西会津国際芸術村

20131029リーマン仕事でバタバタしていたので、すでに先々週の話になってしまいましたが、福島は西会津国際芸術村で開催されている江口敬写真展「そのときの光」を観てきたので、簡単ながら感想をまとめておきたいと思います。

江口氏の個展はすでに東京で『光の森』と『音のない言葉』を体験しているので、今回は三回目ということになります。ただ今回の展示はかなり実験的な要素も強く、”写真展”とあるものの、実際はそれぞれの作品の配置にまで意識を配ったインスタレーションという趣が強い、非常に刺激的な内容で堪能しました。

自分が見に行ったのは初日の20日で、県外である神奈川からの参加にもかかわらず一番乗りでした(爆)。朝四時に家を出て、中央道、首都高、東北道、磐越道を乗り継いで十時に到着、――当日は出発のときから雨模様で、西会津に着いたときにはかなりの土砂降りでした。しかし廃校をアートスペースとした会場はひっそりとしていて雰囲気がとてもよかったです。

木造の旧校舎をほとんどそのままのかたちで使用している会場は、本当に昭和時代の学校そのままで、ロッカーはもとより授業でそのまま用いていたのではとおぼしき定規や分度器、鉄琴などかさりげなく飾られているところも面白い(建物のなかはこんなかんじ)。自分よりもう少し上の世代、――あるいは田舎の木造校舎で授業を受けた方であれば、かなり懐かしいかんじがするのではないでしょうか。

今回の写真展『そのときの光』は、会場となる木造校舎のなかで撮影された写真を、撮影されたその場所に掲げて「作品」としているのですが、この試みにまず惹かれました。つまり写真そのものだけで完結しているわけではなく、その「写真」が「そこ」に掲げられることによって作品として「完成」する、――上にも書いた通り、当日は土砂降りだったわけですが、たとえば二階の会場へと通じる階段の入口には、江口氏が「そのとき」に見たであろう、階段の欄干から射し込むやわらかな光が床張りの廊下に映える情景が「写真」として写し取られ、その場所に掲げられている。

この作品に対峙するものは、まず写真を見、そして次にその写真が「いま」自分の立っている場所のどこを、どのように撮影したのだろうと考え、あたりを見廻すことになります。そして、ほどなくしてその場所を探し当てると、見るものは「いま」自分が作品の前に立って見ている”光”と、作品として目の前にある”光”との違いを知ることになる。作品の内部に写し取られた”光”と同様、その作品を通して「いま」まさに自分が見ている”光”もまた「いま、ここ」にしかないものであることを知るにいたり、ようやくこの写真展のタイトルの真意が理解できるという演出も心憎い。

こうして何枚もの作品に対峙していくと、「いま、ここ」で見ている写真を媒介として、自分が「いま、ここ」に見ている”光”を探りあてる行為が今回の展示では大きな比重を占めていることに気がつくわけですが、作品に結実された”光”の出所とモチーフもまた非常によく練られていることに感心しました。以前の個展、――特に『音のない言葉』では、抽象的な作風によって、作品の意味を見るものに想起してもらうという積極的なアプローチが見られたわけですが、今回の展示はそこからさらに一歩進め、作品を通して見るものが存在している「いま、ここ」を問いかけるという、逆説的な意味で非常に内省的な展示であったことが印象に残りました。

正直、今回の『そのときの光』だけでも十分に満足だったのですが、二階のやや大ぶりの「教室」には、以前東京で見た『光の森』がまったく違ったかたちで展示されていて、これには吃驚。確かに展示スペースとなるこの「教室」は、小伝馬町のアイアイエー・ギャラリー以上に外光があからさまに入り込み、むしろ作品が掲げられるべき壁面よりも窓の方が広いという、「ギャラリー」としてはかなり不利な場所でもありました。果たしてそんな会場に、作者である江口氏が大胆不敵な展示手法を魅せてくれたのですが、――これは是非とも会場に足を運んで実物を見ていただければと思います。

以前からその写真の作風を「現代アートっぽい」と評されていた江口氏ではありますが――ちなみに写真に関して完全にド素人の自分はそう思ってません(爆)――、”現代アート的な”インスタレーションによって作品の持つ潜在能力を最大限に引き出してみせた今回の展示は素晴らしい成果を見せている、――そう言い切ってしまってもいいのではないでしょうか。

西会津は会津といっても、むしろ新潟に近く、関東から東北道を経由して磐越堂で行くとなるとチと遠いのですが、見る価値は大いにアリだと思います。来月の24日迄。なお、休館日がけっこうあるので、西会津国際芸術村のサイトでチェックされるのがよいと思います。

江口敬写真展 「そのときの光」

開催期間  2013.10.20-11.24
開館時間 10:00〜15:00
【10月の休館日】7日、21日、22日、23日
【11月の休館日】3日、5日、11日、18日、19日、26日、27日