もう先週になってしまったんですが、東京都写真美術館で開催されている三つの展示――須田一政『凪の片』展、『写真のエステ-写真作品のつくりかた』、『写真新世紀2013』をまとめて観てきたので簡単ながら感想を。
一応、今回のお目当ては須田一政の『凪の片』。これはかなりのボリュームで愉しめました。『凪の片』だけでなく、『風姿花伝』や『恐山へ』などもあってじっくり眺めることができたものの、壁にずらりと掲げられたモノクロプリントのほか、ガラスケースの中におさめられたスナップなど、その作品の膨大さゆえか、会場を出たあとは全体の印象が希薄になってしまったのがちょっとアレ(爆)。今回は珍しく図録も手に入れなかったので、個々の作品について振り返ることもできないのが悔しいものの、東京都写真美術館のサイトの「展覧会の見どころ」にある「現実の裂け目から異空間を覗き見るような写真表現」の風格についていうと、個人的には最新作となる「凪の片」よりも、「風姿花伝」や「恐山」などの過去作品の方に強く感じられました。
『写真のエステ-コスモス 写された自然の形象』は、「木・火・土・金・水という5つの元素を手がかりに、29,000点を超える東京都写真美術館の豊富なコレクションのなかから、選りすぐりの写真作品を紹介」とある通り、五行説を模した展示に趣向を凝らした企画もの。それぞれのモチーフに関しては、この写真を<木・火・土・金・水>に押し込めるのにチと無理があるだろ、と苦笑したくなる展示も個人的には感じられたものの、『凪の片』の膨大な作品群を見たあとのクールダウンとしてはなかなかのものでした。ただ、写真そのものの力よりも企画の趣向が勝りすぎて、個々の作品の印象が希薄になってしまったように感じられるがあるのはまあ、いたしかたないかナーと。
実は今回の三つの展示の中でもっとも愉しめたのが入場無料の『写真新世紀2013』だったというのが何ともなのですが(爆)、こちらは原田要介の新作『見るになる』も一緒に見られるという大盤振る舞いで、これは必見といえるでしょう。既報の通り、受賞作は鈴木育郎『鳶・CONSTREQUIEM』に決まったわけですが、正直、いずれもおおよそフォトコンとかにありがちな定番・定石から大きく乖離した作品ばかりで堪能しました。
フォトコンっぽいという点では、安藤すみれの「ESCAPE」は自らを被写体とし、自己探求という青春時代につきもののチーフに「写真とは何か」という、これまた手垢のついた疑問を重ねたものながら、ベタすぎる演出は個性をむき出しにした他の優秀作の中では逆に異彩を放っていたところが面白かったです。
写真という作品そのものの力というよりは、演出や企画の力で見るものを釘付けにするという点では、海老原祥子「記念写真」の方が個人的には好みでしょうか。作者も述べている通り、この作品はまだ完成途上ともいえるわけですが、ある特殊な、――しかしあまりにありきたりな撮影技法ゆえに”撮影者”の主観が入りようがない、それゆえに作品として成立してしまうという逆説的なありようが秀逸でした。また優秀作の中ではもっとも笑って見られるという点でも、一番のお気に入りかもしれません。
藪口雄也「コンテナの中の瞳」は、壁面へグリッド状に並べられた見せ方はもとより、個々の作品から”見る”ものが”見つめられる”という趣向によって、凄まじい迫力を持った写真へと昇華されている作品。ただ、社会批判的な作風は、写真としてはある意味諸刃の剣ともいえ、この作品が優秀作となってしまったことで作者は今後もこのテーマを追いかけていかなければならない足枷を背負ったともいえます。今後の作品はもちろん、その”覚悟”も追いかけていきたい、――そんな気持ちにさせる力を持った写真でした。
水野真「よそからきた」は、佐内正史の「写真しかない感じが良い」という評価が全てをあらわしています。個人的にはかなり好きな作風で、「見る」ことへの執着を捨てることで、偏りなく被写体を見つめる「眼」を獲得し、それが見るものに「写真しかない」感覚を惹起させる作風は、昨年の受賞者である原田要介にも通じるような気がしたのですが、いかがでしょう。
会場の入って一番奥に展示されていたのが、その原田要介の新作「見るになる」なのですが、これが、いい。タイトルにある通り、一切の偏りを捨てて「見る」ことに徹したところから立ちのぼる被写体のあるがままの姿、――それ”だけ”が写真に焼きついているという感覚。演出で見せる安藤すみれの作品から見ていき、最後には「眼」だけになった原田要介の写真群で終わるという展示も、個人的にはとても味があり、ヨカッタです。
正直、須田一政『凪の片』展だけでもかなりのボリュームなので、三展を一度にまとめてみてやろうという方は、時間を余裕を持っていった方がよろしいかと。個人的には三階の『凪の片』から『写真のエステ』へと順に下へと下っていき、最後に『写真新世紀2013』でシメる、という見方をオススメしたいと思います。