○○○○○○○○殺人事件 / 早坂吝

○○○○○○○○殺人事件 /  早坂吝第50回メフィスト賞受賞作。相当なクセ球ですが、こういうのは嫌いじゃないです(爆)。正統な本格ミステリとして読めば、あまりの下品さに紳士淑女が壁本認定することは必定ながら、バカミスマニアは苦笑しながら拍手喝采、しかしエロミスマニアであればやや点は辛くなるカモ、――というカンジでしょうか。ちなみに自分は最初に舞台背景のバカミス的真相が明かされたときには拍手喝采し、その後の本格ミステリ的な謎解きが始まるにいたってやや評価を落とした次第。それでも十分に愉しめました。好き者にはタマらない一冊といえるでしょう。

物語は、地味目な公務員のボーイがネットで知り合った連中と孤島の館を訪れるのだが、館の主人は何やら訳アリのブギーマンで、訪問客と主人の妻が駆け落ちしたのをきっかけにいよいよ殺人が発生し、――という話。

いちいち作者が出てきて、孤島に館で密室で顔を隠した登場人物が云々、――といった本格ミステリの定石すぎる趣向にツッコミを入れてくるあたり、相当にヒネクレ者だったりするわけですが、そうした作者の語りが大きな伏線に、また騙しにも繋がっているところが秀逸です。読んでいる最中にはマッタク意味不明な”南国モード”とやらに突入した語り手の口調が途中に大きく変わってしまうところでは、アレ系の仕掛けはないヨと作者が断言してみたりとあくまでフェアプレイを貫こうとする作者の志も素晴らしい。

軽妙な語り口ながらときに無駄なシーンが多すぎるのはご愛嬌として、その風格はどことなく石崎幸二を彷彿とさせます。しかしバカミス的な真相については、氏の作品以上にお下劣。なるほど作者が神の視点云々で、まさにその「視点」を小説によって語っているからこそ成立しえる仕掛けを、堂々と読者の前に開陳しているところが大胆不敵で、そこから軽妙ながら一応大真面目に謎解きを進めていた登場人物たちに対する「見方」が一変し、物語世界の情景が大きく様変わりしてみせる快感はまさに本格ミステリのソレ、――とはいえ、繰り返しになりますが、バカミス的なこの仕掛けがもたらすクダらなさは、様々なアレ系の傑作を通過してきたマニアでもかなり意見の分かれるところカモしれません。

個人的には、このバカミス的な情景変化には大満足なのですが、そのあとに展開される謎解きのディテールはややアレで、エロミス的な要素を加えてまさにエロジックならではの趣向を大胆に見せてはくれるものの、ややこのロジックには穴やまぎれが多いような、――いや、ネタバレ以前にこのあたりをあまりに詳しく語るのは紳士としてあるまじき行為ゆえ、差し控えるしかないのですが、凶器に関する推理においての穴をエロジックで埋めていく後半の謎解きについては、ほかにも色々と考えられる要素はあるんじゃないかなー、と感じた次第です。

あまりにお下劣な作風は、紳士淑女が膝を正して読むべき本格ミステリとしてはかなりアレながら、これに収録されている某傑作短編と並んで○○○○○(カタカナ五文字)をある行為におけるホワイダニットとしてみせた趣向は個人的には高感度大。ただ、繰り返しになりますが、日々イヤらしいことをミステリに関連づけて妄想しているキワモノマニアであれば、この○○○○○(カタカナ五文字)に関する謎解きの穴を埋めようとするだけでも、ここから先に敷衍して様々なエロジックを妄想、――もとい、構築することができたのではないかナーと。逆にいえば、そうしたところまで敢えて進めていかない、いうなればエロジックの寸止めをしてみせた作風を鑑みるに、存外に作者は真面目な人で、自身の作風はもっと違うものでなのカモしれません。特に後半、ドイツ文学云々でゲーテやカフカをさらりと出してくるあたり、もしかしたら本作はメフィスト賞を手に入れるための戦略から生み出されたもので、いうなればこれは深水黎一郎氏の処女作『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』のような気もしてきます。ひとまず二作目が出てくればそのあたりの疑問も氷解するやもしれません。次作が楽しみであります。