惹句に『身を震わせるラストの衝撃!』、――とありつつも、その「衝撃」は、本格ミステリに期待される衝撃の真相の驚きというよりは、主人公の非情な決断がもたらす哀しい結末に唖然としてしまう、という物語ゆえ、『慟哭』に連なるアレ系を期待するとやや肩すかしを覚えるやもしれません。
物語は、母親の育児拒否によってトラウマを負った主人公が成長していくにつれ裏家業のごときヤバい仕事で次々と他人を陥れていくのだが、しかし、……という話。
冒頭のいじめに始まり、ホストに入れ込む母親に育児拒否されている主人公の過去が語られていく展開は相当に辛いのですが、そんな彼を心配する幼馴染みの二人の優しさをも拒絶するボーイがサラ金業者へと就職したあたりから、物語は悪漢小説のごとき雰囲気を醸し出してきます。不動産詐欺によって男から大金を巻き上げたり、ママのお店を潰してみせたりとやっていることは相当に悪辣なのですが、時を経て綴られていくそうした主人公の悪事の動機がいまひとつ見えてこないとこかがやや不可解、――とはいえ、ボーイの出自からその理由についてはおおよその察しはつくのですが、それでもボーイがやたらと名字と名前を区別して語ろうとするシーンや、彼が伯父のところにもらわれていった過去などを絡めて語られる物語にはアレ系の仕掛けがあるのでは? とどうしても勘ぐってしまいます。とはいえ、そのあたりはアンマリ難しく考えずに読み進めていった方が、本作に限っては吉、のような気がします。
本作における謎は、ボーイを悪事へと駆り立てるその動機や、被害者たちのミッシングリンクよりは、後半、幼馴染みとの再会において発生するある事件の顛末というか結末でありまして、各の「命の重み」に対する主人公の思い入れから帰結される非情な決断と、それによってもたらされる結末がなんともやるせなく、そしてもの哀しい。
過去に描かれていた悲壮なシーンがその動機には大きく絡んでいるのですが、彼の悪事に荷担した過去の登場人物など、ボーイと同じ場所に棲むものたちと、光ある場所を生きてきた幼馴染みの二人を対置させておきながら、彼が最後に引き起こす非情な決意は、そうしたコインの裏表とはやや異なるところから生じたものであることは意想外な真相ともいえるものの、その質感は本格ミステリ的な驚愕の真相とは異なります。この驚きを驚きとして受け止められるかどうかで本作の評価はかなり分かれるような気がするのですが、『身を震わせるラストの衝撃!』という惹句ではそのあたりを誤解して読み進めてしまう読者がいるのでは、――とそのあたりがチと心配。
むしろこのラストは大石圭の小説に近いような気もするゆえ、『慟哭』よりは大石小説に馴染んだ自分のような読者の方が愉しめるカモしれません。全編にわたって暗鬱な雰囲気で展開される一冊ゆえ、やや取り扱い注意ということで。