屑の刃 重犯罪取材班・早乙女綾香 / 麻見 和史

屑の刃 重犯罪取材班・早乙女綾香  / 麻見 和史講談社ノベルズの『警視庁捜査一課十一係』シリーズに『特捜7』と、ジャケ帯にも「大人気警察小説の著者」と記されている通り、謎解きで物語を牽引していく本格ミステリというよりは、サスペンスで盛り上げていく警察小説の作風ではあるものの、フーダニットの見せ方には面白い趣向が見られ、なかなか愉しむことができました。

物語は、大手の新聞社からCS放送局に転職した”困り顔”で”癒やし系”の娘っ子がマスコミを翻弄する連続殺人鬼に挑む、――という話。以前に勤めていた新聞社との確執や、かつて弟が事件に巻き込まれた履歴アリというヒロインの造詣は一見すると安直に見えるものの、前者については犯人の動機にも密接に関わっているあたり、作者ならではの実直にして丁寧な事件の構図の構築ぶりが素晴らしい。

山猫と名乗る犯人が、かつて娘ッ子が勤めていた新聞社にメールを送りつけてくるという行動にも大きな意味があり、マスコミを手玉に取りながら、そうした行為そのものにも過去の事件に気づかせる奸計が隠されているという趣向は、『特捜7』や『警視庁捜査一課十一係』にも登場する犯人像にも通じる作者の十八番。

映像をはじめ様々な手がかりから犯人の性格は中盤で明かされているのですが、犯人像が明かされた時点から”逆算”していくと、通常の本格ミステリであれば、おそらくこの犯人へとたどりつく過程はアリバイ崩しの見せ方で語られていくのが定石と思えるのですが、いかがでしょう。そうした定番の技法を封印して、犯人が潜伏するアジトを探り出していく推理によって、『特捜7』にも見られた東京駅周辺の地の利を活かして暗躍するフーダニットを開陳していく展開が面白い。フーダニットよりも、犯人の足取りを追いかけながらのアジト探しに読者の視線を固定させ、犯人の存在そのものを容疑者リストの圏外へと隠蔽してしまう技法はなかなかのもので、意想外な場所で探偵役のヒロインたちが犯人と再会するシーンがイイ。

ヒロインの視点から、成長していく女性像とともに彼女が身を置く刑事組織の活躍を描き出した『警視庁捜査一課十一係』のシリーズ、そしてホームズ・ワトソン式のオーソドックスな形式によってヒロインの不思議チャンぶりを活写した『特捜7』に比較すると、ヒロインの視点から物語が展開していく点では『警視庁捜査一課十一係』に近い構成ながら、周りの男衆が存外に頼りないながらも、かつての新聞社の先輩や、会社のやり手社長など、ヒロインを今後強くサポートしていく登場人物たちが脇に配置されているところから、ヒロインの成長を軸にした物語という点では、『警視庁捜査一課十一係』以上に拡がりを予感させる本作、――おそらくシリーズものとして今後も書き続けられていくのではないかと予想されます。

『警視庁捜査一課十一係』のヒロインが、たしか保険会社のCMに出ていた女優に似ているということから宮崎あおいに脳内変換可能としたら、本作は「困り顔」の「癒やし系」ということですから、さしずめぱるること島崎遥香、あたりか、……と想像するに、なんとなく作者が好みとする女性のタイプが判るように感じるのは気のせいでしょうか(爆)。『警視庁捜査一課十一係』シリーズ同様、次作を期待したいと思います。