狂おしい夜 / 鯨 統一郎

狂おしい夜  / 鯨 統一郎ホラーだけどミステリ読みは絶対に手に取るべし。もの凄い仕掛けがあるから!という一冊を読了したのですが、何だかピンと来ないのでブログに感想をあげるのはやめにして、と――急遽予定を変更したため、他に何か気楽に読めるのはないかナ、とReader™ Storeで探して手に入れた一冊。文庫書き下ろしというパッケージにふさわしくさらさらと読み進めることができました。

物語は、暴漢に襲われて記憶を失ってしまった娘っ子が莫大な遺産を継ぐことになっているらしい事を知るが、彼女は家政婦として父の家に住むことに。やがて彼女の夫と名乗る人物や恋人だったという男が現れて、――という話。

暴漢の犯人は誰なのか、それはストーカーなのか、それとも件の遺産相続に絡んでいるのか、という二つの動機を軸に話が展開していくのですが、彼女が記憶を失っているため、自称旦那はもとより、恋人を名乗る人物や、母親という女まで怪しく見えてしまうという、サスペンスフルな展開が素敵です。

物語は大きな二転三転を見せるわけではありませんが、要所要所に遺産相続を狙って彼女を陥れようとする人物たちの作戦会議や、刑事達の捜査過程が挿入され、事件の構図を次第に明らかにしていきます。後半に進むにつれて、彼女の記憶が甦っていくところから物語がスピードアップしていく展開がなかなかイイ。

遺産相続と彼女に近づいてくる男達の正体が明かされていく中で、この陰謀を主導しながらも事件の背後に隠れていた主犯人物の存在が明かされていくのですが、なんとなくこの真相は予想の範疇ながら、裁判の判例などを下地にして主犯人物の心理状況を辿りながら事件発生の端緒を解き明かしていく推理には納得で、最後はすべて丸く収まりヨカッタね、とカンジでジ・エンド。

大きなカタルシスこそありませんが、とにかく物語がテンポよく進んでいくので、あっという間に読み終えてしまいます。いっさいの夾雑物を排して、ヒロインの視点から記憶喪失に陥った彼女の心理状態を軸に物語を進めていくサスペンスフルな展開で事件の構図を解き明かしていくミステリの趣向を織り交ぜた物語ゆえ、軽い感じで手に取っても十二分に愉しめる一冊だと思います。オススメでしょう。