先週の木曜日に台湾文化センターで開催された「映活vol.3<映画『共犯』上映&トーク>」を観に行ってきたので簡単に感想をまとめておきたいと思います。映画『共犯』はちょうど今日から新宿武蔵野館で公開が始まった映画で、公式サイトで偏愛する楊徳昌の『牯嶺街少年殺人事件』と並ぶ名作と紹介されているとなれば見逃すわけにはいきません。というわけで今回のイベントに挑んだわけですが、――実をいうと、映画よりもどちらかというと川島小鳥のトークが聞けるカモしれないとソッチの方から興味を惹かれたのはナイショです(爆)。
イベントのスケジューは、映画『共犯』の上映に続いて、映画解説者・中井圭氏の司会による「ヤオ・アイニン&川島小鳥&松崎健夫トークショー」。そのあとに「フォトセッション」、「映活イベント」と続く予定だったのですが、実はイベントが始まるまで、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターの公式サイトも、映活のfacebookページもよく見ていなかったため、この日のトークに松崎健夫氏が出演されることも知らなかったという……(爆)。松崎氏と言えば、朝の情報番組「ZIP!」の新作映画の紹介コーナーで素晴らしい解説と「絵解き」を見せてくれている評論家。このコーナーを毎回愉しみにしている自分としては、司会の中井氏、姚愛寗(ヤオ・アイニン)嬢、川島小鳥氏に続いて、氏が登壇されたときには、テレビで見ていたひとがいきなり登場したことに超吃驚。思わぬサプライズにニンマリしてしまったことは言うまでもありません。
――で、まずは映画の感想なのですが、公式サイトの紹介に違わぬ見事な青春映画であり、またミステリ映画の傑作だと思います。驚いたことといえば、この映画、開始早々、タイトルが現れるまで、意味深なシーンとともにスタッフ・キャストの名前が流れていくのですが、その中に見たことのある名前を見つけてしまいました。夏佩爾に烏奴奴。日本人で二人の名前を知っているひとはほとんどいないかと思うのですが、二人は第一回島田荘司推理小説賞で『獵頭矮靈』が一次選考を通過しています。この作品は2010年には出版もされているのですが、烏奴奴の写真も掲載した第一回島田荘司推理小説賞の授賞式の模様については、旧ブログのこの記事に書いてあるので、興味がおありの方はご覧下さい。
さて、映画の内容はネタバレを回避するため、なるべくボカした感じで書きますが、飛び降り自殺をした娘っ子の現場を偶然通りかかった三人のボーイが、彼女の死の真相を突き止めていくうちに、――という話。最初から彼女の死が自殺であるとされ、殺人の可能性が回避されているところが、本格ミステリー小説とはやや趣を異にするところではあるのですが、もちろんこのままストレートに話が進んでいく筈がありません。死の真相を探っていく三人は関係が深まるにつれて、ある行動を起こすにいたるのですが、それをきっかけにもう一つの死が起こり、そこから彼らの歯車が狂っていく、――という中盤からの展開はミステリとしても秀逸です。そして最後の最後に明かされる悲哀溢れる事件の構図は、現代本格でいうまさに「アレ」なのですが、本格ミステリーを読み慣れている人であれば、この構図については案外中盤、アッサリと見抜いてしまうカモしれません(自分がそうでした)。とはいえ、タイトルの『共犯』の意味が、この事件に関わり、また巻き込まれた複数の人間の関係を重層的に暗示している趣向は素晴らしいの一言で、いくつか挙げられる「共犯」関係の中でもっとも個人的に惹かれたのは、やはり上に述べた「アレ」を用いた死者との隠微な共犯関係でしょうか。いずれにしろ、台湾ミステリ好きにも強くオススメできる映画であることは間違いありません。
それと物語そのものとは関係ないのですが、映画の中でヤオ・アイニン嬢演じる夏薇喬の聴いていた曲が、陳綺貞も参加したアルバム『THE VERSE』に収録されている「快速動眠(Freud)」だったことも、陳綺貞ファンとしては嬉しかったです。
さて、映画の上映が終わると、しばしの休憩を挟んで「ヤオ・アイニン&川島小鳥&松崎健夫トークショー」となったのですが、このトークショー、なんと写真が撮り放題、……って聞いてないですよ(泣)。そうであるとはつゆ知らず、35mm単焦点のDSC-RX1しか持ってこなかった自分は、ズーム付きのコンデジで、姚愛寗嬢の写真をガンガン撮っている手前の中年男性を横目に歯ぎしりするしかありませんでした、……かといって簡単に引き下がるわけにもいかないので、トリミングした写真をここに掲載しておきます。姚愛寗嬢は、日本の女優でいうと、平愛梨や小松菜奈を思わせる風貌の美女で、「日本でモデルの仕事がしたい」「いまは日本語の勉強をしている」そうです。
映画の中では、いかにもメンヘラ女っぽいダークな女の子を演じた姚愛寗嬢ですが、素の彼女とのギャップに驚いたみたいな意見について、自分の性格は映画の中で演じた夏薇喬にも通じるところがあると思う、と言っていました。川島氏の写真集『明星』の中の彼女も、そういえばただ明るい感じだけじゃない、どこか寂しげな雰囲気を漂わせていたものもあったし、そういう意味ではやはり女優なんだなあ、……と感じた次第。なお、『明星』に関しては、松崎氏の話によると、写真集には、この『共犯』を撮る前の彼女と、その後の彼女がおさめられているとのことでした。ですから、映画を観てからあらためてこの写真集を見かえすと、この映画に出演したことによって生じた彼女の変化を見ることができるのではないか、と――。
トークショーが終わったあとは、「フォトセッション」を経て、中井氏と松崎氏二人によるトークショーである「映活イベント」になったのですが、「フォトセッション」が終わってから、ゾロゾロと帰ってしまう来場者が多数(苦笑)。ざっと見たところ半数以上が帰ってしまったような気がするのですが、そんな会場の状況を一瞥しながら、中井氏が「お客さん、かなり帰ってしまいましたけど……」と当惑かつ苦笑気味に呟いても、松崎氏は「全然平気です」と泰然自若。しかし、今回のイベントで最大の収穫はこのお二人のトークショーだったと感じる自分としては、帰ってしまったお客さんは本当に損したんじゃないノ、と思った次第です。
松崎氏が指摘したこの映画のポイントで惹かれたものをいくつか列挙しておくと、「タイトルが登場する前のシーンにすべてが描かれている」、「水の暗示するもの」、「森のシーンの色調の違い」、「あるシーンの道路標識が暗示する意味」――こんなかんじでしょうか。トークショーの進行は、中井氏が自身の映画に対する意見を述べると、松崎氏がそれに同意しつつ、その点についてさらに深く掘り下げていく、というかんじで、非常に明快で判りやすく、こんなトークがタダで聞けてしまうというのも、なんだか申し訳ない気がしました。二人のトークは三十分ほどで終わりましたが、お金を払ってもいいので、もっともっと松崎氏の解説と「絵解き」を聞きたかったなア、と思いました。例えばある部屋を入ったところで眼に入ってくる「Not here」の文字とか、後半、少年二人がある窮地を脱したところで、陽が射しながらも雨が降り注いでいるシーンの意味、とか――。いずれにしろ、この映画には、本格ミステリー小説の伏線を回収していくような面白さがあることは間違いありません。
というわけで、大満足のイベントでありました。なお、はじめて訪れた台湾文化センターは虎ノ門の新しいビルにあり、現在は「古い写真を通して台湾を知る」という写真展が開催されています。この写真展は八月十二日迄。デジタルプリントでしたが、ちょっと興味を惹かれた写真家も見つけてしまったので、もしかしたらあらためて再訪することになるかもしれません。