『藝文風』最新号に掲載された第四回噶瑪蘭島田荘司推理小説賞入選者インタビューその三 『黄』の作者・雷鈞

先日紹介した「『藝文風』最新号に掲載された第四回噶瑪蘭島田荘司推理小説賞入選者インタビューその二 『熱層之密室』の作者・提子墨」に続く第三弾です。今回取りあげるのは、第三回島田荘司推理小説賞で、『見鬼的愛情』が入選しつつも受賞にはいたらなかった雷鈞氏。今回は、前回の提子墨氏のものとほぼ同じ構成で、一問一答形式ではなく、インタビューアが作者から聞いた話をまとめたものになっています。なお、タイトルのあとに惹句が入っているのは前回同様なのですが、今回に限っては微妙にネタバレの可能性アリなので、ここでは敢えて消してあります。

『藝文風』最新号に掲載された第四回噶瑪蘭島田荘司推理小説賞入選者インタビューその三 『黄』の作者・『藝文風』最新号に掲載された第四回噶瑪蘭島田荘司推理小説賞入選者インタビューその三 『黄』の作者・雷鈞

 

選考委員からも好評を得た中国広東は雷鈞の作品『黄』。この物語の真相に、読者は必ずや驚かれることだろう。第三回島田荘司推理小説賞、そして今回と二度入選を果たせた幸運については大変嬉しく思う、と雷鈞は言う。

 第三回島田荘司推理小説賞で最終選考にまで残った『見鬼的愛情』は、「幽霊」をモチーフに用いた個性的な一編だ。前段の妙味にくわえて、登場人物の造詣やその文体は大変に魅力的で、主人公が知らぬうちに異様な世界へと足を踏み入れていく物語は読者の不安を煽りつつ進み、やがて現実へと回帰していく――その起伏に富んだ息もつかせぬ展開は読者を惹きつけてやまない。

 雷鈞はかつて大陸の推理雑誌が主催する「華文推理小説大賞」に短編小説を投稿したことがあるものの、入選にはいたらなかった。中学時代には科学オリンピックに出場し、受賞した経験もある。少年時代から本格ミステリーを書くことに興味を抱き、創作を始めた2009年から今にいたるまで飽くなき挑戦を続けている雷鈞――彼の創作は小説の執筆が主だが、その関心は今や歴史やSF、幻想小説など様々なジャンルに及ぶ。ただその中にも推理の要素は必ず織り交ぜていきたいと考えている。

「『黄』のテーマを思いついたのは、もう十八年前のことなんです」と雷鈞は言う。中学時代、ゲームのデザイナーになりたいと思っていた彼は、1996年に『Tomb Raider』をもとにあるゲームの構想をひらめいたという。登場人物それぞれが海外で生まれ育った中国人たちで、黄土高原で展開される冒険譚――彼はそのゲームに『黄』という名をつけた。

 作家となればおしなべて執筆の最中には壁へとつき当たるものだか、雷鈞もまたその例外ではない。物語の構成は、彼がこの小説を書き始めたときからの頭痛の種だったが、何度も推敲を繰り返したのち、もっとも難易度は高いものの、この物語にふさわしいやり方へと落ち着くことになった。『黄』は一人称視点で書かれている。これこそ彼にとってはもっとも大きな挑戦といえたが、この方法以外は考えられなかった――。

 雷鈞がもっとも尊敬する作家はアガサ・クリスティーで、コナン・ドイルのホームスものにもかなりの影響を受けたという。アメリカのエラリー・クイーン、日本の横溝正史、島田荘司、綾辻行人もまた彼が敬愛する作家たちである。本格ミステリー以外では、ジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌』における登場人物たちの造詣に惹かれるという。

 現在の欧米文学における技巧はアジアにとっても学ぶところが大きい、と雷鈞は考える。例えば斜体にして強調すれば、読者は多くの文字に眼を通す必要もなくなるし、話の筋の中で特別な意味を持たせることができる。創作と理系関連の書物の読書、仕事自体に大きな繋がりはないが、ひたむきに技法を学び、たくさんの本を読む習慣を持つことで、そこから小説の極意をくみ取ることは創作の鍛錬にも繋がると彼は感じている。
 
 中学時代は理科系、大学では商学を専攻した雷鈞にとって、文章を書くための基本的な技法を得るためのハードルは高くなかった。さらに今ではネットの発達によって、もっとも相応しい文章表現をネットの専門サイトで見つけることもできる。

 第四回「噶瑪蘭島田荘司推理小説賞」の二次選考を通過し、あまつさえ最終選考にまで残ることができたこの貴重な機会を得ることができ、大変光栄である――雷鈞は言った。