前回のエントリで、陳綺貞が参加したTHE VERSEのアルバム『52赫茲』を取り上げたついでに、最近ハマッている台湾の音楽をちょっとだけ紹介してみたいと思います。というわけで、最初の一枚目は最近リリースされてすっかりヘビロテとなっている林瑪黛の『房間裡的動物』から。清涼感・浮遊感溢れる心地よいポップスという作風は、自分のような陳綺貞ファンにもかなりアピールできるような気がします。
林瑪黛という名前と女性ボーカルであることから、女性のソロをイメージしてしまうのですが、林瑪黛はバンド名で、この記事などによれば「林瑪黛はあなたでも私でもあるような架空の人物」で、「音楽を通じて、その人と動物がともにあるかのような奇妙な風貌をあらわす」「架空の人物」であるとのこと。というわけで、そのイメージがジャケ画にもなっている猫っぽい女の子なのですが、記事にある絵では、猫を膝にのせ、肩にはオカメインコ(?)がとまっている姿になっています。
林瑪黛の活動はまた台湾での動物愛護に大きく関わるものであるとのことですが、そうした社会的なメッセージに大きく構えなくとも、まず音楽そのものが非常に素晴らしい。結成当初はTrip hopからスタートした作風も、電子音からなる計算されたリズムやエフェクト、さらには伸びやかな林意倩のボーカルから、彼らが影響を受けたというフランスのTrip hopのデュオ、Airなどよりは、日本だと遊佐未森の初期にも通じる涼しげな雰囲気が近しいような気がします。台湾ポップスだと、陳綺貞にくわえて魏如萱の浮遊感をイメージしてもらえばなんとなくこの曲の雰囲気を伝えられるかな、――と。
曲風でいうと、Trip hopからの影響ということで、まず電子音に耳がいってしまうわけですが、個人的にはむしろギター担当の林易祺による小技をふんだんに効かせた音がなかなかに印象的で、けっして前面に出てくることはないものの、よくよく耳を澄ませてみると要所要所でいい仕事をしています。肝心の電子音ももちろん素晴らしく、「馬戲團」の後半、転調によってちょっとしたカオスが展開されるところなど、自分のようなプログレマニアにも聴きどころの多い楽曲がテンコモリ。さらに林瑪黛のもう一つの大きな魅力として、やはりPVの美しさも特筆されるべきでしょう。特に「滿奇」のストーリー性のある色鮮やかなアニメは必見です。
というわけで、台湾ポップスのファンならもちろん、エレクトロニカ周辺の音楽に敏感なひとにもなかなかアピールできる一枚といえるのではないでしょうか。オススメです。