派樂黛F1-哲人之石

派樂黛F1-哲人之石派樂黛唱片がリリースした、台湾の電子音楽のアーティストたちの作品を収録したオムニバスアルバム。電子音楽というジャンルで強引に一枚のアルバムまとめられているだけで、曲風は様々、そして非常にレベルが高いです。この濃密さとお得感は、――ロートルのプログレマニア的な比喩をすれば、勝井祐二と鬼怒無月の”まぼろしの世界”からリリースされた『MABO ROSHI NO SEKAI SAMPLES』を彷彿とさせます。アーティストのお披露目としても非常にお得感のある一枚でかなりオススメなんですが、バラエティに富むセレクトゆえ、曲によってかなり人を選ぶカモしれません。

一応、収録曲とアーティストは以下の通り。

  1. Beautiful / Fish In The Sky
  2. Cosmic Dust / Conehead 錐頭
  3. The Arrested / Sonic Deadhorse, 貍貓
  4. You Never Leave / Dipper Chen
  5. White Peacock / LUPA
  6. PooL / KbN
  7. 不可及 / 方波樂團
  8. Three Little Piggy / Lazybody
  9. 浮橋 / 鉄屋
  10. Child Went Forth / Neoteny
  11. Sometimes / Partimer
  12. Loving Outer Space / Yellow Morning, Zack Kao
  13. 山上的人 / 孔雀眼 JADE EYES
  14. Rosy dawn / INN
  15. The Bluebird / Jill Stark
  16. 沒時間説嘴 / 逆風少女
  17. 鐵面無私 / 大聲東
  18. 如果我可以接受沒有如果 / 梁香
  19. Feel the ice / 謝孟庭

この中から自分のプログレ耳で愉しめた曲を挙げていくと、まず Fish In The Skyの「Beautiful」。正直、この最初の一曲だけで魂を持っていかれたという(爆)。Ulrich Schnaussの『Far Away Trains Passing By』のようなピコピコ音を交えた浮遊感のある電子音をバックに、しなやかな女声が高らかに歌い上げると一曲なのですが、素晴らしい。残念なのは、このFish In The Sky、色々と探してみてもネットで確認できるのはこの一曲だけということ。アルバムが出れば絶対に買い、というくらい好きになりました。

Conehead 錐頭の「Cosmic Dust」は、くぐもった電子音でトーンの沈んだ空間を現出させるという、――このジャンルではかなり聞き慣れた音で新味はないのですが、なんとなーくNumbの『空』あたりのイメージと近接した感覚を覚えました。なかなか好みです。

Sonic Deadhorse, 貍貓の「The Arrested」。Sonic Deadhorse, 貍貓はネットで公開されている他の音源を聴いてみると、ヒップホップのジャンルにカテゴライズされていたりするのですけど、中国語というよりは一聴するとフランス語に聞こえてしまう(爆)脅迫的なボーカルに、畳みかけるような高速のブレイクビーツが弾けまくる一曲。

Dipper Chenの「You Never Leave」は、Tortoiseの名作『TNT』に収録されていた「Ten-Day Interval」を想起されるチャカポコにロボット声が重なるという曲風。ちょっと単調に流れるきらいがありますが、これもまた個性ということで。

LUPAの「White Peacock」の雰囲気は、舌足らずなボーカルといい全体の浮遊感とい、もうマンマ4ADのHis Name Is Alive (爆)。いや、本当にこの曲がHis Name Is Alive のアルバムに入っていてもマッタク違和感がないのではないかと。当時4ADのアルバムを聴きまくっていたロートルの方であれば、その懐かしさに涙すること請け合いの一曲ではないでしょうか。

方波樂團の「不可及」は、電子音楽というジャンルを感じさせないほどに歌の強さが際だった一曲。バックのリヴァーヴのかかったコーラスをはじめとして電子音は非常に緻密に練られているのがよく聴くと判るのですが、敢えてそうした複雑さを感じさせず、一聴すると非常にシンプルに聴けてしまうところが凄い。

「浮橋」の鉄屋は、つい最近、日本のライブハウスでも演奏を披露したバンド、――っていうのを最近調べて知ったのですが(苦笑)、この曲も方波樂團の「不可及」と同様、電子音以上に歌の良さが感じられる一曲です。情感を込めた声に相反して、幻想的でシンプルなギターの音色との重なりは、王菲の『浮躁』をも彷彿とさせます。このバンドの音、かなり好みなので、EPの『未竟之言』も購入済み。

Partimerの「Sometimes」。オリエンタルな風味も交えながらたゆたう女声の旋律は、新居昭乃と柚楽弥衣の『Goddess in the Morning』にも通じる音空間で、これもかなりイイです。

INNの「Rosy dawn」。かなり懐古的な音だと思います。七〇年代のアナログっぽさが横溢した感じながら、チルアウトするには好適な一曲かと。

逆風少女の「沒時間説嘴」。音痴な森田童子みたいな(?)投げやりボーカルが一転、シアトリカルな雰囲気へと変わり、これまた東洋かアラブかといったシタールっぽい音と電子音のリズムが絡み合いながら不思議な心地よさを醸し出す一曲で、これも好みが分かれるような気がします。

梁香の「如果我可以接受沒有如果」。ピアノに太鼓とシンプルなバックからそよぎ出るか細いボーカル。嗚呼、この”彼岸”感、――多加美を彷彿とさせます(爆)。とはいえ、多加美のように彼岸を超えて完全に”あちら”に逝ってしまったわけではなく、こちらの世界に踏みとどまったまま彼岸を見つめる眼差しで切々と歌い上げているというか……。これは完全に好み。日本人でここまで”彼岸”を醸し出す歌い手はあまりいないような気がします。これは是非ともライブで聴いてみたい、と感じました。

謝孟庭の「Feel the ice」は、シンプルなギターに英語のボーカルを重ねた一曲なので、台湾の電子音楽というジャンルからは完全に逸脱しているんじゃないノ、と思わせるわけですが、 Fish In The Skyの「Beautiful」の高みから上昇し、「Feel the ice」によってしずしずと幕を閉じるアルバムの構成がまた不思議な余韻を残します。

――という感じで、ざっと紹介してきましたが、個人的には電子音楽のオムニバスアルバムといいながら、やはり女声に惹かれてしまうところが自分らしいというか。というわけで、中華ポップスの女性ボーカルの魅力を堪能したい方でも満足できる素晴らしい楽曲も収録されているので、手に取る価値は十分にアリだと思います。オススメでしょう。