江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 / 原作・江戸川乱歩 (著), 作画・石川球太 (著), 作画・真崎守 (著), 作画・池上遼一 (著)

20160111『パノラマ島奇談』『地獄風景』の二編が収録されていた第一巻に続く本作は、トラウマ級の逸品をズラリと取りそろえた最強の一冊で、堪能しました。収録作は、奇才・石川球太の気色悪くも迫力ある描線から紡がれるあやかしの「白昼夢」、「人間椅子」、「芋虫」、「お勢地獄」、「押絵と旅する男」。「鏡地獄」からモチーフを借りた真崎守の「巡礼萬華鏡」、そして石川球太とは対極にあるかのような流麗な画によって描かれる毒婦が美しすぎる池上遼一の「お勢登場」の全八編。

とにかく本作は石川球太に尽きる、といってもいいほどで、冒頭を飾る「白昼夢」からして、表紙画にもなっている気色悪い生首がドーン! と見開きで登場というド派手さで見せてくれます。香具師の口上がびっしりとコマに描かれたページが延々と続き、主人公の僕チンが件の”蝋人形”の生首をジーッと眺めているうちに、……というところでページを変えて訪れる張り詰めた空気、そしてジリジリと焼けつくような夏景色とともに描かれる香具師の緊張感、――動静の対比によって構築された展開りのうまさには息をするのも忘れてしまうほど。

そして「人間椅子」は、椅子職人の醜男が自身の生き様を淡々と語っていくところは原作と同じながら、やはり自らも醜いといって憚らないその容姿が本作ではシッカリと描かれているところに注目でしょうか。楳図かずおや我らがコガシン先生にも通じる、「あの時代」の劇画でしか味わうことのできない妙にリアルな”醜さ”がタマりません。それともう一点、本作の結末なのですが、自分の記憶とチと違っていたので思わず乱歩の原作を読み返してしまいました。こちらは少しばかり改変がなされてい、都市伝説的な終わり方になっているところが味わい深い。原作のいかにも「欺された」という爽快な読後感ももちろんイイのですが、ホラーっぽい余韻を残した本作の改編もなかなかのもの。

そして気色悪さでは「芋虫」も相当のもので、妻がうなされる悪夢の描写が凄い。ネッチリと妻の内心が描かれてい、最後に夫がアレしてしまうシーンの醸し出す虚無感の美しさ、おそろしさ、――これまた「白昼夢」と並ぶトラウマ級の傑作といえるのではないでしょうか。

「お勢地獄」は、巻末に収録された池上遼一の「お勢登場」と比較しながら未読するべき一編で、「お勢登場」は池上御大の描き出す毒婦の美しさがまずキモ。見開きとページ運びに繊細な意識を凝らした展開が素晴らしく、毒婦が旦那をアレしてしまうシーンを二ページでダイナミックに描いた構成と、ご臨終となった旦那の姿をデーン! とこれまた見開きで描ききったところが凄い。読後感は妙にアッサリとしている池上版「お勢」に比較すると、石川御大の「お勢」は”地獄”とある通りに、お勢の「その後」を加えて毒婦の行く末を気色悪く活写した最後のページは、いたいけな子供であれば失禁してしまう可能性もまたなきにしもあらず、というほどに壮絶な仕上がりで魅せてくれます。

「押絵と旅する男」は、件の男の静かな狂気が淡々と単純なコマ割で描かれる構成で、収録作の石川御大の作品の中では一番おとなしめ。そういう意味では一番原作の雰囲気をうまく伝えている一編といえるかもしれません。

真崎守の『巡礼萬華鏡』は、いかにも懐かし風味の感じられる劇画タッチと、今の時代ではやや古くさくも感じられるコマ割の構成ながら、ひばり感溢れるキャラ描写の展開に相反して、ラストは幻想的なシーンで美しく幕を閉じる構成が秀逸です。

すでにこの妖美劇画館は三巻目も読了済みなのですが、この中でどれか一冊、ということになれば、やはり本作ということになるような気がします。「パノラマ島奇談」を収録した美しくもあやかしの描写がステキだった一巻ももちろん素晴らしいのですが、キワモノをまさに極めたという意味では、もっとも乱歩らしくて気色悪い、そして良い子にトラウマを植え付けるという意味では石川球太の作品をズラリと取りそろえた本作が一番のオススメといえるでしょう。乱歩ファンも、そしてキワモノマニアの好事家にも是非是非。

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