乱歩没後50年ということで昨年リリースされた一冊。年を越してしまったので完全に旬を過ぎた感が半端ないわけですが(爆)、以前に取り上げた我らがコガシン御大の「屋根裏の散歩者」を収録した『江戸川乱歩怪奇漫画館』の版元が実業之日本社だったのに対して、本作は少年画報社からのリリース。また「パノラマ島奇談」の作画は上村一夫で、同時収録の「地獄風景」の方が桑田次郎という布陣です。
「地獄風景」は、本作を読んでも一向に細部を思い出せないので、おそらく未読ではないかと思うのですが、話の展開そのものは「パノラマ島奇談」と大きく変わるところはありません。綿引勝美氏の解説によると、第一次「江戸川乱歩全集」(平凡社)の各巻には別冊付録として「探偵趣味」という冊子がついており、その巻頭には新作小説を書き下ろしていたとのこと。で、その小説が「地獄風景」で、これには犯人当ての懸賞までつけていたというものの、「パノラマ島奇談」との相似性に気がつけば実をいうと犯人はバレバレ(爆)。まあ、このあたりはご愛嬌ということで、むしろ本作に収録されている「パノラマ島奇談」と「地獄風景」における物語展開の相似性に留意しつつ、犯人当てとするためのに「パノラマ島奇談」がどのように改変されたのか、とか、上村氏と桑田氏で、作中に表現されているモチーフがどのような絵へと昇華されているのか、――とかそのあたりを比較しながら味読するのが良いような気がします。
「パノラマ島奇談」はやはり第三話で、”妻”を連れて島へと降り立ち、その仕掛けを巡る幻想的なシーンが美しい。このあたりはもちろん乱歩の筆になる平易でありながら想像力を喚起する文体で愉しむのは作法とはいえ、やはりこれがまた見事な絵になるとまた違った趣があります。
「地獄風景」は中盤を過ぎてもなんとなーく(バレバレでありながらも)実直なフーダニットを絡めて物語が展開されていくので、幻想性を堪能するという雰囲気ではないのですが、いかにも怪しげな使用人をマークしていたらやっぱりそいつは犯人じゃなかった、とかのイージーな誤導が時代性を感じさせて微笑ましい。また明らかにヒッピーといった連中のフザケっぷりは当時の劇画の趣がタップリで、今のヤングにはやや違和感があるところではないかと推察されるものの、イマドキの性急な漫画とはまた違った鷹揚さが感じられて、自分のようなロートルにはこれがまたタマりません。
上に述べた物語の相似性という点では、やはりラストのド派手な花火の描写が印象的で、それぞれにその表現と花火の”タネ”を目の当たりにした人物の末路が異なるところが面白い。「パノラマ島奇談」は原作の雰囲気そのままに、あやかしタップリの余韻で幕引きとなるのに対して、「地獄風景」はその直前までのヤングたちが次々と餌食となっていくメリケンホラー映画もかくやという展開の慌ただしさをそのまま引き継ぐような形で、刑事がアッチの世界に逝ってしまってジ・エンドという幕引きがこれまた妙にハマっています。
原作を知っている人はもちろん、知らないヤングも案外、漫画ということでサラリと読み流せる本作は、乱歩に興味のある多くの読者にオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。
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江戸川乱歩怪奇漫画館 / 古賀 新一