12月に最新EP『次等秘密』をリリースした台湾のインディーズバンドVast&Hazyのインタビュー記事@streetvoice(を日本語にしてみました)

(昨日、Mediumにあげた内容ですが、台湾の音楽ネタということで、こちらのブログの方にも貼っておきます)

 

三ヶ月ほど前に台湾のインディーズバンドVast&Hazyについてのストーリーを書きました。最近本人からそのストーリーに対してのリプライがあって、「12月にリリースした最新EP『次等秘密』が1月9日には色々なサイトで聴けるようになるからよろしく!」とのこと。ダウンロード版は自分の場合、indievoxで購入しているのですが、9日の時点ではまだ販売が開始されていなかったのでしばらく忘れていたものの、数日前に再び覗いてみたら聴けるようになっていたので迷わず購入した次第です。一聴して吃驚。前EPとなる『Vast & Hazy』からよりアグレッシヴな風格へと大きな変貌を遂げた一枚で、かなりのお気に入りとなりました。

というわけで、streetvoiceによる彼らのインタビュー記事をざっと日本語にしてみました(原文はこちら)。もう少し日本でもメジャーになって、林瑪黛 Ma-te Linと一緒に来日ライブをしてくれたりすると個人的には凄く凄く嬉しいのだけれど……。

四人編成のバンドから二人組のユニットになったことと音楽上の変化、その思わぬ関連性

高二の時にギターのサークルにいた大咖とギター部の易祺は、五校の主催する演奏会に出演した。当時はお互いに面識もなかったものの、三年で芸術大学の試験を受けた際、待合室で再会した二人がギターを携えていたことから(試験には演奏があった)、あの演奏会のときに一緒だったことを思い出したという。

大咖
「試験には二人とも合格できなかったんだけど、それからは時々会ったりもして、同じ大学に進むことになったの」

大学三年の時、二人はドラマーで後輩の白虎とともに金韶獎に参加。そこで意気投合した三人は、Vast&Hazyを結成する。フォークから軽快なロックへと曲調にも大きな変化があったなかで、ギタリストの小憨が加入。大学を卒業後はメンバーそれぞれが違う道へと進み、バンドとしての活動はいったん休止する。やがて易祺はVast&Hazyを再始動することを決意するが、白虎は黃玠瑋のアルバム製作に専念しており、レコーディングについてもっと勉強してみたいという気持ちが強かった。小憨も将来については自分なりの考えがあるということで、色々と考えた末、二人組のユニットで活動するところへと落ち着いたという。

大咖
「ライブとレコーディングでは他のミュージシャン仲間とも一緒に仕事をするわけだけど、白虎はアルバム制作のメンバーというだけじゃなくて、できあがった曲をまず最初に聴いてもらうひとでもあるの。仕事の上でもお互いに行き来はしているし、小憨とは今でも一緒に朝食をとったり本を読んだりすることだってあるわ(笑)。二人は今でも気のおけない友達だし、Vast&Hazyが二人だけになったってことを敢えてみんなに告知すること必要もないんじゃないかなって」

メンバーの変化だけではない。音楽面でもVast&Hazyはシンプルなフォークソングからポップなロックへと変貌し、『次等秘密』ではその新しい一面を見せてくれている。

易祺
「高校から大学まではずっとギターのバンドにいたんだ。最初のころはフォークギターでアレンジを加えたりしてたから、やはり曲を作るとなるとまずは弾き語りで、という感じになるね。大学を卒業して音楽業界に身をおくようになってから、作曲について色々な方法に触れるチャンスがあったよ。エレクトロユニットである林瑪黛では楽曲や音色にたくさんの可能性を見出すことができたし、そこで得たシンセやミキシングのやりかたとかは、もちろん今回の『次等秘密』にも活かされている」
すべてがメイン曲! 優秀なプロデューサーが結集して

アルバム『次等秘密』製作について、注目すべきところは少なくない。「食人夢」はHello Nico の詠恩が編曲を行い、椰子樂團(椰子!! Coconuts)のドラマー・peterとギタリストの韓立康がレコーディングに参加している。

易祺
「アレンジがクールなだけじゃない。とにかくこの曲はドラムがブッ飛んでいるから演奏するとなると難しい。そこでまず思い浮かんだのがPeterだったんだ。韓立康はもっとも尊敬しているギタリストだし、この曲を聴いてもらえば彼のギターだっていうのはすぐに判ると思うよ」

易祺「色んなミュージシャンと仕事をするのはとても楽しいね。皆それぞれに持ち味があって自分のやりかたがある。この曲には自分が大好きな彼らの個性と持ち味が集約されていると思うし、仕上がりにはとても満足しているんだ」

「與浪之間」と「歸屬」は易祺が自ら作曲・編曲を行ったが、粉紅噪音(Pink Noise)の小潘と神棍樂團の老呉をゲストに招いてレコーディングを行った。

「テクニックの安定したミュージシャンが揃えばレコーディングにも安心して臨むことができるしね。この二曲には自分の思いが凝縮しているといっていい。自分がやろうとしていたことそのままという感じでね、ドラムパート以外のほとんどは詠恩のスタジオで仕上げたんだ。メロディにアレンジ、これはこうしようとお互いに色々話し合ってね。スタジオにこもりきりのミュージシャンだと、こうやって顔をつきあわせてのやりとりというのはあまりしないんと思うんだけど……というか、まさに自分がそうなんだけれど、とにかく今回の仕上がりは本当に満足しているよ」

もう一点、このアルバムで注目すべきところは、この二曲に音楽業界の重鎮Brandyがコーラスパートともとにボーカルで参加していることだろう。

「リスナーを励ますような曲が欠かせないものだってことは判ってるよ。実際自分だって気分が沈んでいるときとかに、そういう曲を聴いて励まされることもあるしね。ただ、憂鬱な気分とか、心の中のわだかまりというか、そういう感情をはき出したような曲も必要だと思うんだ。もちろんリスナーの中にはそういう曲を聞き慣れてないことだってあるかもしれないけれど、皆が皆そうというわけじゃないし、聞き手が作品とともに変わっていくいうのもまた当然だと思う」

アルバム『次等秘密』に込められた思いについて、大咖がここ最近自分の感じていることを語ってくれた。

「すべての夢が叶うわけじゃないけれど、こうなりたいっていうイメージは、影のようになって自分の後ろ背にそっと隠れているんじゃないかしら。それは誰にも知られることのない、いうなれば秘密の第二人格のようなもの――それがどんなものかっていうのは、このアルバムを手に取ってくれた皆がそれぞれに考えてもらいたいの。曲にしても歌詞にしたって、これはこういうものだと決めつけてしまうものじゃないし、聴いた人それぞれに様々な感じ方、考え方があるわけだから、それがどんなものであってもいいと思う。映画だって展開されるドラマがシンプルすぎたら、頭の中で色々と考えてみることもできなくなってしまうでしょう。私たちの曲だってそう」

バンドとアルバムのタイポグラフィは、滅火器、P!SCO、拾音といったバンドの撮影やデザインを行ったこともある浮世錠 Faustine 0.5mgの黃夏妤によるものだ。引き算のようによりシンプルに仕上げてみたという。

EPのジャケットを手がけた郭映汝Ruruは、「秘密」というモチーフをデザインにさりげなく添えてみたという。メンバーの写真を砕けたガラスの向こうから透けて見えるように切り取った見せ方だが、これにも「隠されたもの」というモチーフが頭の中にあったという。ジャケットの写真はマカオのPuzzleman Leungによるものだ。

「彼は本当に面白いアイディアをたくさん出してくれてね、自分たちが思い描いていた夜のネオンサインのような雰囲気に加えて、ガラスのような紙素材でなかなかキャッチーなものに仕上げてくれたね。それともうひとつ、すべての撮影にはフィルムカメラを使ったんだ」

クリエイティビティに価値が置かれる時代、インディーズ・ミュージックはどうあるべきか

ニュー・アルバムについてのエピソードを終え、話題は台湾における音楽シーンへと移った。情報化がますます進み、リスナーの好みもめまぐるしく変わっていくこの時代、若い世代のミュージシャンでもありリスナーでもある易祺と大咖の二人は、この点についてどう考えているのだろうか?

「インディーズの立場からすれば、今はクリエイティビティに価値の置かれる時代だと思う」

易祺は中学生時代にカバーした曲を例に挙げ、インディーズの占める割合はすでにチャイニーズ・ポップスを超えているという。

「というのも、まず曲がいいしね。だからしっかりとした考えを持っているバンドにはチャンスがある」

音楽フェスについても易祺は自分の思いを語ってくれた。

易祺「これにはたくさんの悪循環があると思う。主催者からのギャラは格安だけど、それでもバンドは出演する。これはが決して良いことだとは思えないね。これにはフェスを運営するコストとかも含めて様々な理由があるんだけど、だからといって法外なギャラを支払って海外のアーティストを招待することもできないし、台湾ではこれはもうひたすら我慢するしかないのかな……どんな音楽でもライブは大切だけど、この状況をどうすればいいのかっていうのは判らない。ただ自分としてはそういう悪循環に取り込まれることなく、きちんとしたギャラがもらえるようにしていくことだろうね。何かいいアイディアがあれば是非とも話を聞いてみたいよ」

大咖「一番いいのは経済が好転していくことで、そうすればリスナーだって音楽にもっとたくさん金を使ってくれるんだろうとは思う。あとは政府からの補助や企業からのバックアップがあれば、主催者にだって余裕が出てくるでしょうね。そうすればもちろん、出演するアーティストにも納得のいくギャラが支払われることになって、良い流れができていくんじゃないかな。もし音楽フェスが『あまり音楽を聴かないリスナーが、もっと音楽を聴くようなきっかけ』になるのであれば、それは素晴らしいことだと思う。『インディーズ・ミュージックにお金を払うファンは5000人程度』なんて言うでしょう。それは確かに悔しいけど、反論できないのもまた事実。現在のインディーズ・シーンはまだまだ盛りあがりに欠けるけど、実際ファンも少ないわけだし、難しいところね」

メジャーとインディーズの違いについて、大咖は「企画とプロモーション」がもたらす影響の差が大きいという。

大咖「しっかりとデザインされたものは作品の持つ価値を伝えることができるし、見栄えのいパッケージであれば皆も手に取ってくれるし、記憶にも留まるでしょう。作品の受け手となるリスナーの心理を分析して、それに相応しいプロモーションを探ることもできる。もちろんインディーズは素晴らしいし、音楽を良くしていくこと以外に、もっと自分たちの音楽をみんなにアピールしていくことも大切なんじゃないかしら」
一問一答

――音楽によって得ているものは? そこでずっと守っていきたいものは?
易祺「達成感かな。歌詞を書いて曲をつくって、そこからミキシングを経てついに一曲を仕上げたときは本当に気分がいいね」
大咖「”人に何かを与えることができた”という達成感」

――その人と自分の今の生活を一日だけ交換してみたいと思うミュージシャンは?
大咖「テイラー・スウィフト! 冗談ですよ。AURORAでもいいわ」

――あなたにとって音楽とは?

易祺「自分の価値を得ることかな」
大咖「生命の一部。絶対になくすことのできないもの」

――音楽活動と日常生活はどんなふうに振り分けてる?
易祺「……生活のほとんどを音楽に費やしているから……(待改進)」
大咖「これといった区別はしていません」

――どんふうに音楽の蒐集を? またどんなフォーマットで聴いています?
易祺「メインはApple Musicで音楽を聴いて、referenceから探してみたり。あとはyoutubeでライブを見たり。たとえばKEXPとかNRP music……とか」
大咖「Youtubeを巡回したりかな。こんな曲があったんだって驚くことが多いのは、Spotifyで「今週のおすすめ」を聴きまくっているとき。好きなものをお気に入りに入れていたら、Spotifyは私の好みをすっかり判ってしまったらしくて、今ではおすすめの曲はほとんどが気に入るものばかりなの。StreetVoiceのチャンネルからこれっていう曲を見つけることも多いかな。フェイスブックで友達がシェアしている音楽も聴いてみるし、台灣音樂書寫團隊がおすすめしている曲にも注目してます。それともうひとつ、日本のタワーレコードがオススメしているやりかたね。実際のCDに小さな文字で書いたポップをつけているんだけど、そのコメントを参考にしてたくさんあるアルバムの中から自分の趣味にあったものを探して、まずはそれを視聴してみるの。それで気に入って家に買って帰ることもあります」

――最近ミュージシャンの仲間と話した話題は?
易祺「ミュージシャンはどうやって交流し、……」
大咖「理想と現実のギャップについて。ご飯を食べるお金はあるかどうか? コールドプレイのチケットは買った、とか?」

――自分のアルバムを聴いてほしいという人は?
大咖「母。それと幼稚園、小学校と中学校の先生」

――一緒にライブやレコーディングをしてみたいというミュージシャンは?
大咖「何欣穗、阿飛西雅、Cicada、絲襪小姐、韋禮安、小紅帽、hyukoh、雨のパレード、toconoma、Schroeder-Headz、bohemianvoodoo、Alt-J、Germany Germany、ダミアン・ライス、トム・オデール、Kyte、Yuna、Moddi……多すぎて書き切れないわ」

――自分の曲が映画の主題歌やサントラに使われるとしたら?
大咖「「歸屬 Eleanor」を『コンタクト』に。自分が宇宙に興味を持つきっかけとなった映画で、この曲のインスピレーションのほとんどはこの映画からなの。それと「食人夢」は『牯嶺街少年殺人事件』かな?」

――最近おすすめのミュージシャンや曲は?
易祺「派樂黛唱片からリリースされたDisparity。彼のリミックスとサウンドは世界に通用すると思うよ」

――最近興味のあること、してみたいことは?
大咖「宇宙旅行。これは実現させたいですね」

――音楽以外に好きなことは?
大咖「映画を観ること、読書。それと自炊かな」

――今勉強してみたいことは?
易祺「ミキシング。これはインディーズから出したファーストEPを製作したときにプロのミキサーの人とやりとりして痛感したんだ。こういう感じでと言うだけじゃなくて、もっと自分なりのミキシングでやりたいことをうまく表現できるようになりたいね」

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